ぼく(奥さんの話をするときの主語はぼくになる)は奥さんが大好きだ。
17年越しの片思いを経て2018年についに結婚したぼくたち。 実は同じ中学。実家は徒歩10分圏内だ。
そんな大好きな奥さんは、ぼくの事をよく笑わせてくれるし、感動させてくれる。
これまでは言い間違いなど笑い系のエピソードを紹介していたが、
今回は違うジャンルのエピソードを紹介したい。
僕たちは2018年9月18日に入籍し、2019年9月は入籍してちょうど1年だ。
入籍後の1年間は公私ともども凄くバタバタしていて、新婚旅行に行けなかった僕たち。
このまま行かないのは非常に残念だし、娘も順調に育っていたので、
思い切って10月にドイツへ新婚旅行をする事にした。
だから今回はその新婚旅行でのエピソード… ではなく、その2週間ほど前に起きた話だ。
その日、確か金曜日だったと思うけれど、僕たちはいつものように夕飯を一緒に食べていた。
その際に奥さんが「なんか喉が痛くてご飯たべるのがしんどい…」と言い出した。
育児の疲れも溜まっているのだろうし、きっと風邪を引いたのだろうとおもって、
その日は早く寝て体力回復に努めてもらう事にした。
そして翌朝。
めずらしくぼくの方が少し早く目覚めたので、
昨晩やり残した洗い物を片付けていると、奥さんが起きてきた。
喉の具合を心配しながら奥さんの顔をのぞいてみると、表情が険しい。
どうやら症状が悪化しているようだ。
コップに水をいれて渡すと、 水を飲むたびに「痛い!痛い!」と飛び跳ねる奥さん。
痛がりかたが尋常じゃない。 さらに首元をよく見てみると、右首が異常に腫れている。
腫れ方は、少し大きめのスイートポテトが丸ごと入っているといえば伝わるだろうか。
とにかく、見るからに痛そうだ。
これはただ事じゃないと直感し、すぐに最寄りの大学病院へ直行。
診察の結果は「急性扁桃腺炎」で、そのまま緊急入院。
幸い手術などは必要なく点滴と投薬治療で済むとのことだった。
先生が言うには「よくこんなに腫れるまで放っておいたね…」との事。
夫としては、ここまで腫れる前に気がついてあげないといけない…、と大いに反省した。
いずれにしても緊急入院なので、入院準備を整える必要がある。
入院は2泊か3泊になるとのことで、それなりの荷物が必要だ。
病院と自宅を何度か往復していたら、あっという間に夜になった。
この頃には点滴も効いてきて、奥さんはだいぶ元気になっていた。
夕飯は病院内のレストランで一緒に食べたのだが、
痛みも和らいだようで、普通に食べることができていた。
一安心だ。
面会終了時間の20時が近づいてきたたので、僕は帰宅の準備をはじめた。
まだ1歳未満の娘が病院に泊まるわけにはいかないので、僕と娘は自宅へ帰らなければならない。
忘れ物がないかを確認して、エレベーターで1階まで降り、出口へ向かう。
もちろん、奥さんは見送りに来てくれている。
ぼく:「急な入院でびっくりしたけど、大丈夫そうだね。ゆっくり休んでね。」
奥さん:「うん、そうだね…。」
何だか返答が暗い。
ぼく:「あれ?もしかしてまだ扁桃腺が痛む?」
奥さん:「いや、大丈夫…」
明らかに大丈夫じゃなさそうだが、娘をお風呂にいれなければならない。
ぼく:「じゃあ。何かあったらいつでもLINEしてね。おやすみ!」
奥さん:「おやすみ…。葵衣ちゃん、またねー。」
手をふりながら、ベビーカーを押しながら病院を出ようとしたとき、ぼくは異変に気づいた。
奥さんが明らかに泣いている。ポロポロと泣いている。
慌てて奥さんのもとに駆けよって尋ねた。
ぼく:「どうしたの?」
奥さん:「寂しい…」
ぼく:「いやいや、明日の午後にはまた来るし、半日も空かないから大丈夫だよ。本当に寂しがり屋さんだなー。
オレと離れるのがそんなに寂しい?(笑)」
奥さん:「葵衣ちゃんと離れるのが寂しい…。」
ぼく:「あ、オレじゃなくて葵衣の方ね!」
奥さんに笑顔はなく、相変わらずポロポロと泣いている。
と、ここで涙の理由に気づいた。
思えば、出産してから毎日、奥さんと娘の葵衣は必ず一緒のベッドに寝ていた。
一日も欠かさず毎日だ。
だからあの夜が、葵衣と奥さんがはじめて別々のベッドで眠る日だったのだ。
この事実に気づいたとき、ぼくはそんな事くらいで泣いちゃって可愛いな…、とは思わなかった。
なにか、とても尊い瞬間に立ち会った気がして、感動した。
一時も離れたくないと思えるほど、奥さんは娘を愛している。
頭のてっぺんから足の指先まで、どこを切っても愛で満たされているのだ。
「これが母親の愛なんだな」
物心ついてから、ぼくは誰かと離れたくなくて泣いた記憶なんてないし、
むしろ一人で過ごす時間は今でも好きだ。
そんなぼくだったが、「こんな風に泣ける人間になりたいな」と素直に思えた。
少ししたら奥さんの涙も落ち着いて、僕たちはこの日二度目の「おやすみ」を交わして別れた。
帰りながら「やっぱり奥さんは、ぼくが持っていない素敵なモノを持っている、素敵な人だな」
と改めて思ったのだった。
そんなわけで、ぼくは奥さんが大好きなのだ。