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仮説思考力で企画と事業のPDCAを回す① 良い仮説とは何か

新規事業開発のコンサルティングをしていると、

「顧客課題をとらえる為にインタビューをしても、発見感が少ない」

というコメントをいただく事が多い。
そして発見感が少ないインタビューに共通しているのは、
「事前に顧客課題の仮説を考えていない」ことだ。

私は、インタビューや営業商談など顧客と会話をする時間の前に、
必ず課題の仮説を3つは考えるようにしている。
この準備を約20年は続けているため、仮説を考えることは習慣化している。

しかし、仮説を考える=仮説思考は思いのほかビジネス現場で浸透していない。
新規事業開発では仮説構築と検証をスピーディに繰り返すことで、企画内容や事業そのものを
修正・育成していくため、仮説思考ができない事は致命的だ。

したがって、仮説思考のポイントを本記事でお伝えしたいと思う。

目次

仮説とは何か?良い仮説とは何か?

仮説の定義は「まだ未検証だが、現時点で把握している情報をもとに考える、最善に近い仮の答え」だ。
シンプルにすると「現時点の仮の答え」である。

仮説思考では「今ある情報で考えて、仮の“答えを出す”」という意識付けが非常に重要になる。
とにかく仮の答えを出す事にこだわるわけだが、仮説にも良し悪しがある。
良い仮説のポイントを意識しながら考えていく。

良い仮説とはシンプルに言えば「ビジネスの成果に繋がる仮説」だ。

ビジネスの成果とは最終的には売上や利益の向上に繋がっている必要がある。
売上や利益は大きいほど良いので、大きな成果に繋がる仮説はより良い仮説となる。

売上・利益の他にも、
顧客満足(CS:Customer Satisfaction)・従業員満足度(ES:Employee Satisfaction)・生産性指標の
向上などを成果と捉えても良い。
このような成果に繋がる良い仮説は、次の4つの要件を満たしている事が理想だ。

仮説が一定のファクト(事実情報)に支えられている

網羅的に情報収集する事は不可能であり、時間と手間がかかり過ぎるのでビジネスにおいては不要となる。
とはいえ、ファクトの裏付けがまったく無い仮説は論点がズレている事が多く、解決策に繋がらない事が多いもの。
そのような考えは仮説でなくあてずっぽう(当て推量)だ。
時間をかけすぎる事なく、スピートと質を両立させながら収集したファクトがベースになっている仮説が、
良い仮説の第一条件です。

たとえば、大学生とまったく接点もなく情報を持っていない40代のマーケッターが立てた、
「最近の大学生は飲みに行かないし、ゲームやスマホばかりをいじっていてインドア派が多いのだろう」
という仮説を信用することが出来るだろうか?

大学生へのインタビューや何らかの調査結果など、ファクトを集める事が最低限必要となる。

仮説が目的と論点を押さえていること

仮説の役割は、現状・課題・解決策などをスピーディに発見していくことだが、
仮説が目的や論点からズレており、そもそも課題や解決策を生まないものでは意味がない。
具体的な例を挙げてみる。

たとえば
「大学生向けのビジネスチャンスを発見したい。そのために現在の大学生のライフスタイルを明らかにする。」
という課題があったとする。
大学生向けのビジネスチャンスを発見したい=仮説を考える目的であり、
現在の大学生のライフスタイルを明らかにする=論点となる。

論点は少しわかりにくい概念だが、「いま答えをだすべきテーマ」だと理解して欲しい。

このテーマにおいて仮説を考える目的はビジネスチャンスの発見、
つまり大学生がお金を使ってくれるポイントを見つけること。
彼らがいかに過ごし、何に価値を感じて、どのような事にお金を使っているのか?
というライフスタイルを明らかにすることが論点だ。

この目的と論点をともに押さえている仮説は良い仮説です。

【良い仮説の例】

◯「ファッションなどで自分を着飾る事より、友人と自然体でコミュニケーションする
  時間(ランチ会・飲み会・家で手軽にホームパーティなど)にお金を使っている?」

◯「アウトドアや旅行など外出先での楽しさ追求よりも、
  家具・インテリアなど家の中の居住空間を快適にしたいと思っている?」

◯「恋愛・ギャンブル等から得られるドキドキやワクワクよりも、
  みんなで仲良く・着実にという様な、まったり感・安心感に価値を感じている?」

これら仮説はそれぞれ、大学生の日々の暮らしぶりが想像できる仮説なので論点を満たしています。
また、その仮説をもとに大学生向けのビジネスチャンスのアイデアが具体的に考えやすい内容でもある。

上から順に、
・自宅で楽しめるクリスマス・ハロウィンなどのパーティグッズセットの販売
・家具やインテリアの学割販売
・みんなでダラダラできるごろ寝カフェ  などが考えられる。

反対に次の仮説は目的や論点がズレている仮説である。

【悪い仮説の例】

✕「最近の大学生はゆとり教育の影響で、基礎学力が落ちているだろう」
 ⇒目的(ビジネスチャンスの発見)も論点(ライフスタイルを考える)も満たしていない。

✕「バイトで月に10万円以上稼いでいる学生をターゲットにするのが良いのでは?」
 ⇒目的にはかすっているが、論点については触れられていない(満たしていない)

新規性があること

良い仮説には新規性もある。
仮説の新規性とはつまり、「物事を考える新しい視点を提供している」という事だ。

現状仮説であれば実態を新しい視点で捉えている、
戦略仮説であれば今まで実行されていない新しい解決策が提示されている、という事だ。

新規性は独自性と言い換えても良い。
この新規性に求められるレベル感は状況によって異なる。

新規事業や新商品開発の場合は、世の中にまだ提供されていない価値を見つけ出し、
その価値を新しい商品・サービスとして具現化していく必要がある。
「世の中にまだ提供されていない価値」という高いレベルの新規性が要求される。

「何年も連絡を取り合っていない友達と気軽にコミュニケーションできる」
という価値を提供したFacebookや、
「PCと電話を1つのデバイスとして持ち歩く」という価値を提供した
i-Phoneなどはあまりにも有名だ。

一方で、顧客満足度を高める方法・学生の応募者数を増やす方法・営業組織を強くする方法などの課題は、
多くの企業が向き合っているテーマであり、参考になる解決策は世の中に数多くある。
解決策は既存のもので十分で、該当する解決策を見つけ出して社内に応用・適用すれば良い事も多い。
この場合における仮説の新規性は、社内(所属組織)における新規性というレベルで十分なのだ。

「世の中にまだない」というレベルの新規性が必要ないケースにも関わらず、
それを追求するのは時間の無駄。新規性のレベル感は使い分ける必要がある。

具体的なアクションに繋がる仮説であること

良い仮説というのは、仮説を深めていけば必ずアクションに繋がっていく。

戦略系コンサルティングファームで使われているという、
「空・雨・傘」という有名な思考のフレームワークを参考にしながら考えていこう。

1日の始まり。
今日という日を快適に過ごすために出かける前の準備はしっかり行いたい。

あなたが部屋の窓を開けて空を眺めてみると「雲行きが怪しい」ことがわかった。
雲行きが怪しい空を見てあなたは「今日は雨が降るかもしれない」と考え、
最終的に「傘を持って出かけよう」と判断して実際に傘を持ってでかけた。

空がファクトによる現状把握、雨がファクトを元に考える仮説、傘が仮説をもとに導いたアクションとなる。

【空】…「雲行きが怪しい」
【雨】…「今日は雨が降るかもしれない」
【傘】…「傘を持って出かける」
 
【空】…現状把握:ファクト(事実情報)の把握
【雨】…仮説構築:そのファクトを基に考える仮説
【傘】…判断・行動:その仮説から導き出される最善の行動
 ↓
【空】…例)「○○という事実があります」
【雨】…例)「それが△△なのではと思います」「□□するのが良いかと思います」
【傘】…例)「◎◎してみよう」


ポイントは、この【空・雨・傘】を3点セットで考える、ということだ。
「雲行きが怪しい」というファクトから「雨が降るかもしれない」という現状仮説や、
「傘を持ってでかけた方が良いかもしれない」という戦略仮説をつくる事で、
最終的に「傘を持ってでかけよう」という行動に繋がるのだ。

ここでも悪い仮説について考えてみたいと思います。良い仮説の逆を考えると理解しやすくなる。

<悪い仮説の例>

・ファクトが無い:
「昨日晴れたから今日も晴れるだろう」 
→(昨日の晴れは今日の晴れの根拠にならない)

・ファクトが乏しい:
「天気予報で午後から雨だと言っていた気がするから大丈夫だろう」
→(言っていた気がするという曖昧な記憶は当てにならない)

・目的や論点がズレている:
「予報では今日の午後は雨だけど、多少、雨に濡れても風邪ひかないと思うよ」
 →(いや、雨に濡れたくないって言ったよね…)

・アクションに繋がらない:
「予報では午後から雨だし、雨雲も厚いから雨はほぼ確実。ただ、夕方には晴れると思うよ。」 
→(結局、どうしたら良いの??)

・いきなりアクションの提案:
「傘ではなくてレインコートを持っていくべきだよ!」
→(なんで??)

悪い仮説はたいてい根拠が乏しく、論理的ではなく、説得力に欠ける。
結果、もちろんアクションには繋がらない。

ビジネスにおいて、根拠に乏しい提案を鵜呑みにして行動にうつす人は多くないでしょう。
仮説を聞いて違和感や疑問が残ったら、
遠慮なく「なんで(Why)?」や「だからなに(So what)?」と問いかけるようにしよう。
その回答内容に根拠や論理がなければ、それは質の低い仮説だと考えて良い。

それでは次の記事では、良い仮説をつくるための具体的な考え方をお伝えしたいと思う。

それではまた。

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執筆者

中野 崇のアバター 中野 崇 ビジネスプロデューサー/ビジネスデザイナー

・法人向け:新規事業開発と組織開発の伴走型・自立支援型コンサルティング
・個人向け:自分らしいキャリアデザイン支援(コーチング)
・モットー:家事育児、ときどきビジネスデザイナー
・抽象概念と具体的施策の間をつなぐ実践知の体系化が得意
・好きな漫画:「うしおととら」「キングダム」「清く柔く」 など

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