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仮説思考力で企画と事業のPDCAを回す③仮説の土壌となるファクト収集

目次

良い仮説のつくり方 STEP③:ファクト(事実情報)を集める

自分の頭で考えた0次仮説は、
「ほぼ間違いなく確かな事・おそらく確かな事・確かかどうかわからない事」のように分類する事ができる。

分類によって「確かかどうかわからない範囲を明確にする」ということは重要だ。
わかっていない事を中心に情報収集や検証を進めることで、現状把握が効率的に進んでいく。

わからない範囲が明確になったら情報収集を始めていく。
実務的にはまず、WEB検索によってデジタル上の情報から集めていく事になるだろう。

ここで気をつけたいのは、
恣意的に自分の仮説を支持するファクト(事実情報)のみを集めてはいけない、という事。
0次仮説はあくまで情報収集の起点であり、正解ではない。
0次仮説が当たっているかどうかにこだわらず、関連するファクトを集めていくようにしよう。
なおファクトやファクトの集め方にも複数のアプローチがあるため、1つずつ紹介していく。

まずはデスクリサーチで関連情報や数字を効率的に集める

デスクリサーチとは、WEB・新聞・雑誌等の掲載情報や、
専門の調査会社や政府機関が公表している情報、
社内で保有している情報などを網羅的に集めていく手法のことだ。
インターネット普及以前は、現在のように誰もが多くの情報に無料でアクセスできる環境ではなかったため、
特定のテーマや分野について広く・体系的に情報を集めたい場合は調査会社へ依頼することが多かった。

しかしながら言うまでもなく、現在ではビジネスパーソンに限らずほぼ全ての人がWEB検索を中心に、
無料で情報収集ができる。デスクリサーチで特に集めたいファクト(事実情報)は数字情報だ。

数字は実態が量的に可視化されるので理解しやすく、説明力も高いので非常に使いやすい。
たとえばシニア層の定義を60歳以上だとした時に、
「日本は超高齢社会なので60歳以上の割合が高い」という情報よりも、
「平成30年4月の総務省人口推計によると、日本の人口約1億2,650万人のうち、
60歳以上は4,304万人で約34%を占める」という情報の方が、客観的で説得力がある。

「近年はインターネット広告の市場が伸びていて、どうやらTV広告に迫っているらしい」よりも、
「2017年の日本の広告費(電通)によれば、TV広告が約1.9兆円で前年比99.1%に対して、
インターネット広告は約1.5兆円で前年比115.2%である」という数字情報があると説得力が高まる。

あらゆるテーマにおいて適切な数字が見つかるとは限らないが、
可能な限り数字情報を集める努力はするべきだ。

マーケティングや戦略立案時によく使う人口推計や市場規模などの数字であれば、
官公庁や専門の調査会社が独自で算出した数字を公開している。
また、ある商品やサービスの売上情報であれば社内の企画部門が情報を持っているだろうし、
従業員満足や労働時間などであれば人事部門、会社の業績情報であれば財務やIR部門が情報を保有している。

デスクリサーチを効率的に進めるためには、
「どこにどんな情報があるのか、誰がどんな情報を持っているのかを把握しておく」ことも非常に重要だ。

SNSから情報収集を集める「ソーシャルリスニング」

ソーシャルリスニングとは、
Facebook・twitter・Instagramなどのソーシャルメディアから消費者の生の声を収集・分析し、
ビジネスに役立てる手法である。
会社・ブランド・商品に対するポジティブ/ネガティブなどの評価・評判の確認ができること、
商品が実際に使われているシーンを写真付きで把握できること等が特徴だ。

たとえば「自分の身体を見たら泣けて来た。ダイエットしなきゃ(涙)」「芸能人の●●ダイエット凄すぎ」
のような生々しい声を集める事ができる。
また、「見える化エンジン」「口コミ係長」のようなSNS分析ツールを活用すれば、
「ダイエット」に関するクチコミが年初、夏前、また10月以降に盛り上がる、というトレンドを把握する事もできる。

ソーシャルリスニングは、SNSの普及によって生活者がさまざまチャネルで情報発信するようになり、
その情報を参考に企業や商品の質を判断する生活者が増えた事や、
後述するインターネットリサーチやインタビューよりも、より自然体の感想や意見を得られるという事から、
ここ10年くらいで確立された情報収集の手法だ。

なお、10代・20代はFacebookをほぼ使っておらず、
Instagramとtwitter(主にInstagram)がメインの情報収集先です。
Instagramをやっていない読者の方がいらっしゃれば、まずはインストールから始めなければなりませんね。

関連書籍を最低3冊読んで頭に地図をつくる

WEB検索は手軽で簡単なので重宝するが、得られる情報が断片的である事が多く、
全体像やポイントがつかみにくい、という状況に陥りがちだ。

該当テーマの全体像を手早く体系的に理解するには、関連書籍を”最低”3冊読むことが必要だ。

書籍というものは、著者や編集者が内容をわかりやすく伝えるために図書企画を立て、構成を練り、
掲載情報の取捨選択をしているので、情報が体系的に整理されている。
関連テーマを扱う書籍を3冊も読めば、共通して指摘されている重要なポイントなどが理解できる。
また、著者・編集者ごとに捉え方が違うので、テーマに対して多面的な情報をインプットすることもでき、
頭に地図が形作られていくイメージだ。

インターネットリサーチで欲しい情報をピンポイントに集める

WEB検索や書籍を中心としたデスクリサーチを数日実施するだけでもかなりの情報が得られるので、
この段階で仮説をつくれてしまう方も多いと思う。

一方で、近しい数字や情報はたくさん出てくるものの「知りたい情報とちょっと違う…」「情報がちょっと古い…」
「もう少し細分化した情報が欲しい…」というように、痒いところに手が届かない状況に陥る事もよくある。
特に、ビジネスチャンスを探す際に、移り変わりやすい生活者の流行やニーズといった情報は、
古いだけで参考にならないことが多いもの。そこで有効になるのがインターネットリサーチという調査手法だ。

インターネットリサーチとは、調査会社が保有している調査協力モニタにメールで調査依頼を送り、
スマートフォン・アプリ・PCなどから調査に回答してもらう手法である。
紙ではなく専用のリサーチシステムを活用するため、回答結果がリアルタイムで集計され、
早く・安く・手軽にリサーチをすることができる。

調査内容によって金額やスケジュールはもちろん変動するが、
価格は3万円~、スケジュールは概ね2~3日であり、圧倒的な安さとスピード感で情報を集めることができる。

サービスが登場したのは2000年頃ですが、今ではマーケティング関係者に限らず、
多くのビジネスパーソンが活用している非常にポピュラーな手法である。

インターネットリサーチを実施すると、次の図のような数字を集めることができる。

インターネットリサーチで得られる結果のイメージ(執筆者作成)

このデータはダミーですが、60代男性のやりたい事として、
「のんびり過ごす」「配偶者との時間を大切にする」を選んでいる人が圧倒的に多いことに加えて、
旅行・アウトドア・観劇・スポーツなど、多方面に興味・関心があることが数字で把握できる。

一方で、料理や茶道・習字などのインドアな活動は、少なくとも男性60歳以上には魅力的に映っていない。
こうした調査結果を活用することで、仮説(この例は現状仮説)をクイックに検証しつつ、
新しい仮説を手に入れることが出来る。

インターネットリサーチはコストがかかる手法だが、
「自分が知りたい情報をピンポイントで、速く、手軽に集められる」というメリットがある。
情報収集の選択肢の一つとして覚えておこう。

なお、このように数字で量的に表現できる性質の情報を定量情報と呼ぶ。

体温をもったリアルな情報を集める

デスクリサーチやインターネットリサーチは手早く情報を集める事が出来るが、
そこで得られた情報には体温が感じにくいものでもある。

世の中にはさまざまな人がそれぞれの想いをもって暮らしており、
そこには多くの営みがあり、言葉があり、感情がある。

そのような体温をもった情報に接すると、机上の情報収集では得られない仮説を得られることが数多くある。
言葉や感情のように数値化できない情報を定性情報と呼ぶ。
音声・画像・動画情報なども定性情報に含まれるが、手軽に数値化できない情報はすべて定性情報と考えて良い。

定性情報を集める代表的な方法として、インタビュー調査・フィールドワークなどが挙げられる。
定性情報は定量情報のように数値化やグラフ化する事が難しいため、
情報としては扱いにくいというデメリットがあるが、仮説構築においてはむしろ定量情報よりも有用なケースが多い。

その理由については、各手法の説明と合わせてお伝えしていく。

とにかく多くの気付きが得られるインタビュー

多くのビジネスパーソンにとってインタビューは非常に身近な手法だと思う。

例えば営業がクライアントに実施するヒアリングや、
システム担当者がユーザー部門に実施する要望・要件のヒアリングは簡易的なインタビューだ。

また、雑誌に掲載されているインタビュー記事、テレビ番組で街中を歩いている通行人への街頭インタビューなど、
インタビューは情報収集の手段としてさまざまなシーンで活用されている。

インタビューを通して得られる情報は、誰かが加工したものではなく、まさにその場で生まれる情報なので、
着色されていない新鮮で生の情報を獲得できる点や、表情・仕草・声のトーン・対象者が醸し出している雰囲気など

五感で情報収集が可能なため、非常に多くのインプットが得られる。

物事の現状把握にはインタビューが一番。関係者10人にインタビューすれば50%、
20人で70%、30人にインタビューすればほぼ100%わかる。まず10人にインタビューすること。
インタビューは本当に多くの気付きを与えてくれる情報収集手段であり、仮説構築には最適だ。

専門的な見解が欲しいときは有識者へ聴く

有識者とは一般的に「ある物事について詳しい知識や経験を持っている専門家」のような意味である。
経営の専門家は経営者、マーケティングならば実際にマーケティングを実践しているマーケター、
自動車のエンジンの事ならばエンジニア、専門分野を研究している学者などももちろん有識者に含まれる。

実践的な解決策の仮説を得たい時は実務家に聴き、新しい物事の捉え方を得たい時は学者に聴くというように、
得たい情報によって有識者を選び分けることが大切だ。

注意したいのは、役職が高い人やTVで有名な人が必ずしもその領域の専門知識が秀でているわけでは無い、
という事だ。役職が高い人はマネジメント力、TVで有名な人はトーク力という別の要素が評価されている
可能性が高いので、役職や知名度に左右されず、専門知識の保有度合いによって対象者を選んでいこう。

本質的な情報は現場にある

ファクトを集める方法として最後に強調してお伝えしたいのは「現場に行く」という事だ。

原宿のパンケーキが大人気であれば足を運び、ヨガやストレッチがブームになっていれば自分もやってみて、
AIスピーカーに注目が集まっていたらまずは家電量販店で使ってみる。金銭的に余裕があれば買ってみる。

興味のあるなしに関わらず、自分がその商材のターゲットであるかどうかも関係なく、
とにかく「実際に行ってみる・やってみる・触れてみる」ということが大切だ。

スポーツ観戦が良い例だと思うが、TVでスポーツ観戦をしているとついつい「もっと●●すれば良いのに!」
と自分を棚にあげて選手達のプレイにダメ出ししてしまうもの。
しかし実際に自分でやってみると…、当たり前だが全く上手にできない。
そもそも、思い通りに身体を動かすことすらままならないだろう。

頭で理解している事と、実際にできる事には大きな隔たりがあるのだ。

これは情報収集においても当てはまる。
たとえば、ヨガやストレッチなど身体の柔軟性を高める活動が特に女性に人気だが、
「健康増進のために意識の高い女性がヨガやストレッチをやっているのだよね。知ってる知ってる。」
とわかったつもりになってはいないだろうか。

実際にヨガやストレッチをやり続けるとわかるのだが、始めるきっかけは健康増進だとしても、
続けているうちに「自分の身体の構造がわかって“面白い”」「やればやった分だけ身体がよくなるのが“楽しい”」
という風に、知的好奇心が刺激される面白さや、改善実感を得られる楽しさなど、
健康増進とは別の継続理由が生まれてくる。

この面白さや楽しさという感情は、言葉で正しく伝えるのが難しい情報でもあり、
実際に体験しないと正確にはわからないものだ。

現場に行く・実際にやってみることの最大のメリットは、感情を伴った情報を得られることなのだ。

特に広告・宣伝・マーケティングや新規事業・新商品開発に関わるビジネスパーソンであれば、
多くの人々の心を動かしている場所、店舗、商品、番組、映画、書籍などを実際に体感する、
ということをぜひ心がけてもらいたい。

人々は誰もが、日々の生活を豊かに・楽しくしてくれるモノ/コトを求めていて、
そういったものにお金を使いたいと思っている。
私たち自身も仕事から離れると、根っこの部分ではそのような気持ちで何を買うかを決めている。

多くの人々の心を動かしているモノやコトは、多くの人を幸せにしており、結果として大きなお金を生む。
人が集まっているところには人間の本質的欲求があり、そこには必ずビジネスチャンスの種があるのだ。

なお、現場に行く・実際にやってみるというアプローチにもきちんと名前がついており、
フィールドワークと呼ぶ。もともとは研究者が研究対象となる地域や社会に赴き、
その土地に暮らす人々との生活を共にし、交流しながらその地域や社会の文化・生活・社会の仕組みなどを
把握するという社会調査の手法だが、フィールドワークはビジネスシーンでも積極的に活用したい方法である。

五感を使って統合的に情報を集める

インタビューやフィールドワークについては、言葉を尽くして説明するよりもまずは実践あるのみ。
WEB検索やインターネットリサーチを使ったデジタル上の情報収集は、
視覚的情報(文字、画像、数値など)が中心であり、頭で論理的に処理できる性質の情報が大半だ。

一方でインタビューやフィールドワークなどのリアルな定性情報は、視覚的情報はもちろんのこと、
音(聴覚)・匂い(嗅覚)・手触り(触覚)味(味覚)など、五感(身体まるごと)を使って集める情報である。

検索や読書よりも幅広く、深い情報収集が可能になることは想像いただけるかと思う。

また、五感を使って身体で情報収集するという事は、情報を断片的ではなく統合的に把握できるという事でもある。

デジタルデータは各データが分断されている。手元でデータを加工して繋げる・削除するなどは可能だが、
どうしてもデータの継ぎ目・裂け目・スキマが生まれるため、そこから大事な情報がこぼれ落ちてしまう。
要するに、リアルデータよりも情報量が少ないのだ。

しかし、実際の現場ではそれらデータが事象として統合された状態で表出している。
すべてが繋がっているリアルな世界のありのままを感じる事で、つぎはぎのデジタルデータからは抽出できない、
新しい気付きを得る事ができるのだ。
デジタル全盛のこの時代だからこそ、差がつく情報収集はフィールドワークにあるように思う。

なお、これら情報収集方法の詳細については拙著「マーケティングリサーチとデータ分析の基本(すばる舎)」
で詳述しているので、宜しけば参考にして貰えればと思う。

ここまででファクトを集めるさまざまな方法をご紹介してきた。
これだけ情報収集したらそれは既に網羅的な情報収集であり、時間を掛けすぎという事になるのでは?
と感じる方がいるかもしれない。

確かに、これらすべての情報収集を2ヶ月も3ヶ月もかけてやっていたら時間の掛けすぎだ。
しかし、驚かれるかもしれないが、この一連のファクト収集は集中して実施すれば、
すべてを2~3週間で完了させる事ができる。

終えられないのは、一連の情報収集に慣れていないだけ。集中すれば必ず2~3週間でできる。

2~3週間が仮説構築に許される情報収集期間、という事をぜひ認識してもらいたい。

それではまた。

❏書籍紹介
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執筆者

中野 崇のアバター 中野 崇 ビジネスプロデューサー/ビジネスデザイナー

・法人向け:新規事業開発と組織開発の伴走型・自立支援型コンサルティング
・個人向け:自分らしいキャリアデザイン支援(コーチング)
・モットー:家事育児、ときどきビジネスデザイナー
・抽象概念と具体的施策の間をつなぐ実践知の体系化が得意
・好きな漫画:「うしおととら」「キングダム」「清く柔く」 など

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