一般的に、任される組織のサイズと等級は比例する。
課長クラスが5~10名、部長クラスが30~50名、本部長クラスが70~100名がひとつの目安になるだろう。
管理職は組織で成果を出すことが期待される。したがって組織サイズが大きくなればなるほど、
「誰に・何を任せるか」という任せ方の巧拙が組織パフォーマンスに大きな影響を与えるようになる。
組織の構成メンバーがそれぞれ自分の役割を認識し、能力を最大限に発揮して、
適切に連携しあえば組織のパフォーマンスは最大化する。
反対に、うまく機能していない組織では仕事の重複・足の引っ張り・陰口・面従腹背などが横行し、
管理職の仕事がいつもトラブルシューティングになったりもする。
こうした状況をつくらない為にも、適切な役割分担・適切なアサインメントは重要である。
マネジメント・管理職の仕事は適切なアサインメントから
適切なアサイメントに必要なのはやはり「WILL×CAN×MUST」の視点だ。
管理職ならばMUST、すなわち担当組織に期待される役割・責任を明確にすることから始めて欲しい。
あなたの会社の裁量が大きく、懐が深ければ、組織長の意志で役割・責任範囲を決められるかもしれない。
しかし現実には全社のビジョン・目標から細分化されていき、各部門への役割・責任が規定されている。
それらは自分よりも上長が詳しく理解している(はず)なので、
上長とすり合わせをしながら担当組織の役割・責任を明確にしていく事になるだろう。
MUSTがある程度明確になったら、担当組織の構成メンバーのWILLやCANを鑑みながら、
おのおのに役割設定・アサイメントをしていくのだ。
ただこの際に、たいてい「●●を遂行できる人材がウチにはいない」という問題が起きる。
特に現代では、新しいテクノロジーやサービスが日々生まれるし、顧客ニーズも移ろいやすい。
数年前の成功体験や技術はすぐに陳腐化してしまう。会社の舵取りが非常に難しい時代でもある。
どの企業でも常に「人材不足」が大きな問題になっている。
私が所属している業界でいえば、
「アナリスト」「データサイエンティスト」「マーケティングコンサルタント」など、
データ解析やマーケティング戦略立案に特化した技術をもっている人材不足は深刻で、
全体的に人材相場が高騰している。優秀な人材を採用しようと思うと最低でも1,500万円は必要になる。
しかし、技術をもっていたとしても、その技術を活用してビジネスの問題が解決されなければ意味はない。
解析する技術は高いが、分析・解析の企画は考えられない。マーケティング戦略のお絵かきはできるが、
実現に向けたプロジェクト推進はできないなど、問題解決力が低い技術者・専門家は意外と多い。
それでも、そうした人材もひっくるめて相場が高騰しているのが現状だ。
そのような高い人材を雇えるブランドも余裕もない企業が大半であり、
また仮に採用できたとしても、より良い条件が提示されて数年で逃げられてしまうリスクも高い。
したがって、最終的には「自社で一生懸命育成する」という選択肢を取らざるを得ない。
社内にできる人材がいないから、OJTで育てることはできない。
そもそも、できる人材がいないから、その技術が必要となる仕事も社内に少ないため、学ぶ機会も少ない。
学びはインプット(座学)とアウトプット(実践)の両輪が回ることが非常に重要だが、どちらも無い。
ある意味、何も無い状態から学び、技術を習得しなければならない。学習ハードルは非常に高い。
しかし、だからと言って手をこまねいていては、いつまで経っても社内に対応可能な人材は増えず、
組織のケイパビリティも拡張されない。誰かに期待をかけて、挑戦して貰わなければならないのだ。
誰に期待するのか。その人選が極めて重要になる。
私がそのような際に重要にしている視点は、以下の2つである。
マネジメント・管理職がもつべき人材を見極める視点①:学習意欲と学習スピード
それは「学習意欲」「学習スピード」だ。
まず学習意欲がなければ話にならない。
無い無いづくしの環境において、強力な学習意欲のみが学びを進めるエンジンとなる。
しかし、意欲が高いだけでは不十分でもある。複雑な問題を解決できる技術ほど習得に時間がかかるが、
世の中の変化がこれだけ速いと、習得が遅ければ習得した時点ですでに新しい技術が生まれている。
ニーズが変化している、という状況も頻繁に起きる。
できるだけ速く、ポイントをとらえて実践で成果をだせるような「学習スピード」が重要だ。
身も蓋もない表現を使えば「地頭の良さを重視する」ともいえる。
地頭は生まれつきの才能のように思われる事もあるが、私は違うと考えている。
「地頭の良さ=思考訓練の量」である。幼い頃から人の話をよく聴く、書籍を読む、
旅行や遊びなどさまざまな経験を積むのように、とにかく多様なインプットを大量に行う。
そして「インプットからの学びや意味づけを常に考える」という思考訓練の量が、
地頭を形づくっていくのだと思う。
このような思考習慣が幼い頃からある人は、何十年も思考訓練を積んでいるので、
考える力が備わっているというわけだ。才能ではなく訓練なのだ。
加えてもう1つ、いや2つほど人材を見極める視点として重視したいのが「感謝の心」と「責任感」である。
マネジメント・管理職がもつべき人材を見極める視点②:感謝の心と責任感
会社にとっての重要ミッションは、会社の未来に関わる。
典型的な事例は「新規事業開発をエース人材に任せる」だ。
社内に技術・ノウハウ・ネットワークなど何もない状況から、新しい事業をつくるのは非常に難しい。
私も会社はじめての中国進出事業(上海)に事業責任者として参画したが、
オフィス選定、中国人の採用と育成、パートナー企業開拓、ソリューション開発、
システムのローカライズ、顧客開拓など、何でもやった。
英語が通じないことも多かったので、中国語の通訳同伴で商談することも多々あった。
2011年のことである。
この経験は私のスキルを大きく高めたし、胆力や推進力のような馬力的なものは飛躍的に高まった。
そんな機会を与えてくれた会社には感謝しているし、その時から「恩をしっかりと返そう」
という意識が生まれた。
ビジネスキャリアをずっと1つの会社で過ごせとも思わない。終身雇用の弊害も理解している。
ただ、学ぶ機会・成長機会を与えてもらったにも関わらず、自分が得たいものを得たらすぐにとか、
プロジェクトが終わったらすぐにサヨウナラというのは、どうかと思う。
自分が受けた感謝や恩をきちんと感じとれる感受性をもち、それをきちんと返すという姿勢が欲しい。
恩返しに必要な期間は一概に言えないが、
「インプット>アウトプット=成果貢献よりもの学ばせてもらう時間が多い」期間よりも、
「アウトプット>インプット=学びよりも成果貢献している時間が多い」が長くなる恩返し期間は
必要なのでは?と考えている。
ここまで書いてみて、これら条件を満たす人材もそうそういない…という事に気がついた。
理想を語ってしまっている。しかし「学習意欲」「学習スピード」「感謝の心」「責任感」は
スキルというよりも、仕事に向き合う姿勢なので、社会に出てからの数年間でセットできる類のものだ。
やはり初期教育は大切である。