MENU

とりあえずのデータ活用は失敗する ~新規事業でデジタルプロダクトを開発した場合

「新規事業で新しいデジタルプロダクトを開発したので、多くのデータを保有できるようになった」
「データを活用しようと思い、社内データを色々と確認したけれど、実務に活かせるデータがない…」

はじめてデータ活用に取り組むときに直面しがちな状況です。
新規事業開発やデータ活用のコンサルティングをしている際にも、よく耳にする言葉です。

新規事業でSaaSやデジタルプロダクトを開発した場合、
システム内に多くのデータが蓄積されるため、そのデータを活用して何かできるのでは?
と考えるのは自然な思考の流れと言えるでしょう。

しかし、データ活用企画がないままにデータ収集がされている事も多く、
有効なデータ活用につながっていない状況も散見されています。

数万件の顧客情報や膨大なトランザクションデータを保有していても、
そのデータから問題解決につながるアクションや意思決定を導きだせなければ、
データの価値は小さいといえます。

価値あるデータを蓄積するためにも、今あるデータを有効活用するためにも、
データ活用企画は非常に重要です。

目次

データ活用企画で考えるべき9つのポイント

データ活用企画で考えるべき内容は、次の通りです。

「何のために、どのようなデータを、どのように集計・分析し、
どのようなアクションや意思決定につなげるのか」を考えます。

それでは、各項目の詳細を確認していきましょう。

<データ活用企画>

①データ活用目的:
ビジネスの問題解決に向けて、新たに知るべきことをデータで明らかにし、
新しいアクションや意思決定につなげること

②ビジネスの問題:ビジネスの問題(現状とあるべき状態とのギャップ)は何か
③データの問題:ビジネスの問題解決にむけて、わからない事は何か
④データの課題
 ・わからない事の中で、明らかにすべき事は何か
 明らかにすべきことは、どのようなデータ・数字があれば良いのか
⑤データの収集:どのような手段でデータを集めるのか
⑥データの集計・分析:集めたデータをどのように集計・分析するのか
⑦解釈・アクション仮説:明らかになった後、どのような意思決定やアクションを実行する想定なのか
⑧費用:データ活用に費やせる費用はいくらか
⑨スケジュール:①~⑦の項目を、いつまでに完了しなければならないのか

①データ活用目的

データ活用企画でもっとも重要な項目です。

データ活用の最終的な目的は、
ビジネスの問題解決につながる新しいアクションや意思決定につなげることであり、
それはどの企業も同じです。
したがってデータ活用の目的は、
「ビジネスの問題解決に向けて、新たに知るべきことをデータで明らかにし、
新しいアクションや意思決定につなげること」となります。

近年、DX推進やデータドリブン経営の必要性がいたるところで叫ばれているので、
「とにかくデータを活用して何かを始めなければ」と考える企業は多いのですが、
そもそも目的をもってデータを蓄積していなければ、有効なデータは少ないもの。

宝の持ち腐れではなく、そもそも宝など埋まっていないという事もありえます。

ただし、「ビジネスの問題解決に向けて、新たに知るべきことをデータで明らかにし、
新しいアクションや意思決定につなげること」というデータ活用目的は非常に抽象的です。

これから説明する②~⑦の視点を一つずつ考えていくことで、目的が具体的になっていきます。

②ビジネスの問題

問題は、現状とあるべき状態とのギャップです。
年間の売上目標が1億円で、実績(現状)が9,000万円であれば、
達成率90%(▲1,000万円)が問題となります。

仮に翌年も同じ目標だった場合、同じやり方をしていたらやはり目標未達成になるでしょうし、
むしろ実績はより悪くなるでしょう。したがって、問題解決のために何らかの新しいアクションや
意思決定を実行しなければなりません。それでは何をすべきなのか?
を明らかにするために、データを活用していきます。

③データの問題

データの問題とは、問題解決のための方法がわかっている状態(理想)に対して、
わかっていない現状がある為、知るべきことが残っている(=問題)ということです。

つまり、データの問題を考えるというのは、
「ビジネスの問題解決にむけて、わからないことは何か・明らかにすべきことは何かを考える」ことです。

目標に対して▲1,000万円という問題が発生したとき、まず知りたいのは、
「売上が1,000万円足りなかった要因」です。
あるべき状態=売上が1,000万円足りなかった要因がわかっている状態であり、
現状は要因がわかっていない。

したがって、データ問題=売上が1,000万円足りなかった要因がわからないこと、です。

④データの課題

売上が1,000万円足りなかった要因は1つではありません。

3C分析の視点(顧客・競合・自社)などを活用して、以下のように複数考えることができます。

・物価上昇による消費者の購買意欲が低下した
・競合の活動が活発化し、自社の競争優位性が低下した
・物流が滞り、商品・サービスの供給が追いつかなかった
・離職者が増えたが、採用による人材補填が間に合わなかった
・リモートワークに最適化した営業活動を行えなかった                   など

これら不調要因は、あくまで仮説です。

仮説ですから、仮説の妥当性をデータや数字を活用して明らかにしたいのですが、
すべての仮説を検証すると膨大な手間・時間・コストが発生してしまいます。

したがって、まず「わからない事の中で、明らかにすべきことは何か」を考える必要があります。
それから、「明らかにすべきことは、どのようなデータ・数字があれば良いのか」を考えていきます。

この2つを考えることが、データの課題を考えることです。

わからないこと(=問題)をすべて徹底的に明らかにしよう!というのは、
明らかにすべきことや必要なデータ・数字が絞り込まれていない為、課題になっていません。

⑤データの収集

データの課題が明らかになれば、「どのような手段でデータを集めるのか」を考えられるようになります。

データの収集方法は、
WEB検索・営業の商談・問い合わせ窓口・企業サイト・ECサイト・インターネットリサーチなどさまざまです。
集めたいデータの内容に応じて、最適なデータ収集の方法を考えていきます。

⑥データの集計・分析

データは、集めた素のままの情報(ローデータといいます)では解釈できません。
解釈しやすいようにデータを加工・集計・分析する必要があります。

最初の段階では、専門性が要求される高度な集計・統計解析は不要です。
基本的なExcel操作で対応できる範囲の集計・分析方法を考えます。
というのも、データを扱う本人は、複雑な集計・分析工程で得られた数字を解釈することができますが、
実際にデータを触っていないレビュアーや周囲の人間は、複雑な工程そのものが理解できません。

工程が理解できなければ、最終的に提示された数字をどう解釈すべきかがわかりません。
データ活用入門者は、まずはシンプルな集計・分析を心がけましょう。

解釈できなければ議論もできず、新しいアクションや意思決定を見つけることが出来ません。

⑦解釈・アクション仮説

集計・分析された結果を解釈し、どのようなアクションや意思決定を行うのかを考えます。

データが集まっていない企画段階では解釈ができないし、
実行すべきアクションや意思決定も考えられないのでは?と思ったかもしれません。
最終決定という意味ではその通りですが、
「きっと●●というデータ・数字になっているはずだから、■■というアクションを実行すると良いだろう」
という仮説であれば、予め考えることができます。

データを集める前にアクション仮説を考えることは、次のようなメリットがあります。

・データ収集後のアクションスピードを速めることができる
・アクションについて考えを巡らせることで、問題解決へのコミットメントが高まる
・もし、この時点で実現可能なアクションが思いつかなかった場合、
別データやより詳細データの収集が必要という判断を行って、データ課題やデータ収集方法を修正できる

個人ではなく、チームでアクション仮説についてブレインストーミングを行えば、
データ収集後のアクションをチームで推進できるため、問題解決が加速します。オススメです。

⑧費用

希少性の高いデータを集める場合、総研や調査会社などデータビジネスの専門家が保有するデータを購入する、
有料でアンケートやインタビューを行うことがあります。
データを外部から仕入れず、自社で保有しているデータ活用だけを検討していたとしても、
社内に相応のスキル保有者がいなければ、データの集計・加工・分析などは外部に委託せざるを得ません。
データ収集に使えるお金を確認しておきましょう。

⑨スケジュール

新しいアクションや意思決定を実行したい時期から逆算して考えます。

たとえば、3ヶ月後の取締役会で承認を得たいならば、そこから逆算して、
データの活用目的の合意・データ収集・集計・分析・アクションの議論など、
各工程で必要な期間をスケジュールに落とし込みます。

スケジューリングが甘くなりがちなのが、データ活用目的の合意です。

この章で説明している内容を起案者が整理し、納得していたとしても、
その内容を周囲と合意するには思ったよりも時間がかかるものです。
また、データ活用目的や企画内容を合意するさいに、意思決定者や関係者と充分に議論できていれば、
データ収集後のアクション議論が活発になり、アクションの実行スピードも速まります。

早くデータを集めたくなるのが人情ですが、
企画合意プロセスをおろそかにせず、丁寧に進めていきましょう。

以上の9つの視点が、データ活用企画の主なポイントです。

慣れないうちは、すべてを考えるのに一苦労します。
そもそも考えきることが出来ないかもしれませんが、大丈夫です。

考えられていること・考えられていないことが明確になること自体に、意味があります。
考えられていない事については、周囲や専門家に相談する等をして、
段階的に企画内容をブラッシュアップしていきましょう。

記事のシェアはこちらから
  • URLをコピーしました!

執筆者

中野 崇のアバター 中野 崇 ビジネスプロデューサー/ビジネスデザイナー

・法人向け:新規事業開発と組織開発の伴走型・自立支援型コンサルティング
・個人向け:自分らしいキャリアデザイン支援(コーチング)
・モットー:家事育児、ときどきビジネスデザイナー
・抽象概念と具体的施策の間をつなぐ実践知の体系化が得意
・好きな漫画:「うしおととら」「キングダム」「清く柔く」 など

目次