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【マネジメント・管理職の基本②】メンバーの丸ごと理解が信頼関係のはじまり

前回の記事で、管理職の仕事でとくに重要なのが人事考課であり、
人事考課を適切に行うためには「メンバーを丸ごと理解することが重要」だとお伝えした。
今回は、メンバー理解に欠かせない4つの視点について書いてみたいと思う。

目次

管理職がメンバーを深く理解するための4つの視点

4つの視点とは、Will・Can・Know + Personalityのことだ。
Willはやりたい事や意志をもっている事、Canはできる事・得意な事、Knowは知っている事・経験した事、
Personalityは性格や価値観である。

WillL・Can・Mustという3つの視点を聞いたことがある方は多いと思う。
最初にこの言葉を使い始めたのはリクルートマネジメントソリューションズ社だと思うが、
働きがいを高めるためにはWill×Can×Mustを重ねる必要がある、という考え方で、
さまざまなシーンで引用されている。非常に使いやすくパワフルなフレームワークだ。

ただメンバー理解の視点としては少し大雑把なので、実務上はアレンジが必要なことも多い。
私の場合は前述のように、Will・Can・Know + Personalityのようにアレンジしている。
それぞれ、たとえば以下のような問いをメンバーに投げかける。

1・あなたが仕事上で大切にしている価値観は何ですか?(Personality)
2・あなたが現在勤めている会社で達成したいことは何ですか?(Will)
3・あなたのビジネスパーソンとしての強み・弱みは何ですか?(Can)
4・あなたが知見をもっているテーマは何ですか?(Know)


上記の問いは野球でいえば直球ど真ん中だ。この問いにすぐに回答できる部下はかなり優秀だと思う。
多くの人は「大切にしている価値観は何か」「強み・弱みは何か」と自問自答してもなかなか答えをだせない。
そんな時は少し変化球を用いて、違った切り口の問いを立てることをオススメしている。
まずはWillを確認する問いのバリエーションから紹介していく。

視点①Willを深めるための問い

・あなたは社会にどのように貢献したいのだろうか?
・あなたが仕事で達成したいこと、成し遂げたいことは何だろうか?
・あなたがこれまでに夢中になった仕事は何だろうか?
・あなたがこれまでに面白いと感じた仕事は何だろうか?

最初の2つの問いである「社会への貢献」「成し遂げたい事」をすらすらと答えられる人は少ないと思う。
多くの自己啓発系書籍では「やりたい事・達成したい事をやりなさい」ということが語られるが、
そもそもそれを見つける事が難しい。
やりたい事があるのに踏み出せない問題より、やりたい事がみつからない・わからない問題こそが難しい。

しかし問いを少し簡単にして、「これまでに夢中になった仕事はなんだろうか?」
「面白いと感じた仕事は何だろうか?」とすれば考えられる人が格段に増える。
そのときの状況・仕事内容・一緒に働いていた人々などの周辺情報・関連情報や、
「夢中になれた理由や面白いと感じた理由」を一緒に考えてみよう。

夢中になれた事・面白いと感じた事とその理由には、必ずその人の情熱・意志が反映されているので、
メンバーの情熱や意志がどんな時に生まれるのかを理解する手がかりになる。

視点②Canを理解するための問い

・あなたの専門性は何だろうか?
・あなたの強みや得意なことは何だろうか?
・これまでに高い評価を受けた仕事は何だろうか?
・これまでに経験してきた仕事は何だろうか?

Willと同様に「専門性」」「強みや得意なこと」を答えるのは難しいと思う。
したがって、ここでも問いを少し簡単にして「これまでに高い評価を受けた仕事は何だろうか?」とする。
社内で高い評価を受けた仕事・顧客から高い評価を受けた仕事を一緒に洗い出してみよう。
そして、高い評価を受けた理由も合わせて考えていく。

たとえば営業で新規法人の開拓社数で高い評価を受けた事があり、
その要因として行動力・顧客との関係性構築力・プレゼンテーション力などが挙げられたら、
それがメンバーの強みである可能性が高いスキルだ。
あるいは同じ営業でもリピート受注率の高さが評価されていて、その理由が細やかな対応力・ミスのない
受発注処理・社内調整の上手さであるなど、違う強みに起因していることはある。
このように高い評価を受けた仕事とその理由を丁寧に振り返れば、
メンバーのスキルや強みを抽出しやすい。

視点③Knowを理解するための問い

・あなたが人前でスピーチできる知識・知見は何だろうか?
・あなたが人にアドバイスできる知識・知見は何だろうか?
・あなたが詳しいと感じる知識・知見は何だろうか?
・あなたが興味や関心がある分野はなんだろうか?

知識は知っていることや理解していることを指し、知見は「見て知った知識」を指す。
知識には自分が経験したことだけでなく本で読んだことや人から聞いたことも含まれるが、
「知見」はあくまでも自分が見聞きしたり経験して得た知識のこと。
これらが一般的な定義かと思うが、知見=詳しく知っていること、という意味で理解してもらって良いと思う。

知見にも当然深さがあり、
人前でスピーチや講演できる水準のものもあれば、自己評価として詳しいと感じるという水準もあると思う。
「人前でスピーチ」や「人にアドバイス」は他者に対して語れる水準なので難易度が高いものだが、
「詳しいと感じる知見」であれば何かしら見つかる可能性がある。

また「興味や関心がある分野」は、現時点では知見がないけれども学ぶ意欲がある分野=知見の種なので、
必ず見つかるはずだ。そして知見の種が育つよう関連業務を割当ていけば、やがてそれは本当の知見になる。
最終的には強みや専門性に育っていくはずだ。

メンバーが保有している現在のCan(できる事・得意なこと)だけに着目していると、
メンバーの成長性可能性に気づけないリスクがあるので注意が必要だ。

Knowを丁寧に理解していく視点を忘れないでもらいたい。

視点④Personalityを理解するための問い

Will/Can/Knowが理解できたら最後はPersonality(性格や価値観)の理解だ。

性格や価値観は千差万別であり、一言二言で表現できるほど人間の性格は単純ではない。
さまざまな特徴や癖をもっているからこそ人間の個性は味わい深いのだと思う。
それでも、業務上で必ず押さえておきたいのは「好き・嫌い」である。

「うまく言えないけど何か好き」「よくわからないけど何故か嫌い」という感情を誰もが経験していると思う。
好き嫌いは自分の大切にしている価値観に深く根ざしている感情だ。

大切にしている価値観にポジティブな影響を与える人や物事は好きと感じるし、
反対にネガティブな影響を与える人や物事は嫌いと感じるのが自然だろう。
たとえば自分がとても気に入っているお店を酷評されたら、その酷評した人をなんだか嫌いになってしまう
ことが無いだろうか?嫌いとまではいかなくてもとても悲しい気持ちにはなると思う。
それと原理は同じだ。

ちなみに私は今やるべきと感じる仕事を丁寧に取り組むのが好きだが、
優先順位が低いと感じる仕事を議論の余地なくタスク化されるのはどれだけ時間的余裕があっても嫌いである。
仕事におけるメンバーの好き嫌いを明確に理解していれば、好きに近い仕事やミッションを獲る・作ることが
できるし、嫌いに近いものは極力避けてあげるのような対策が打てる。

人間は根っこのところでは論理ではなく感情で動くので、ポジティブな感情が湧いてくる仕事であれば
能動的な行動が継続されるので成果もでやすいものだ。

メンバーの好き・嫌いを抑え込むのではなく、うまく使いこなすという姿勢が大切なのだ。

問題があるから管理職が必要になる

そもそも部下全員が自分の価値観・強み・知見をしっかりと見つけ、それを会社からの期待やミッションと
結びつけて自走しているならば、管理職などいらない。

多くの部下がそれらを見つけられないから、モチベーションが下がったり、受け身な取り組み姿勢になったり、
パフォーマンスがいまいちだったりする。つまり問題が起きる。
問題が起きるから、その解決役として管理職の役割があるのだ。

「本当にやりたい事は何だろう?」「私に強みや知見などあるのだろうか?」
というもやもやは、誰もが常に抱えている。「もやもや」はポジションが上がったとしても無くならない。
誰もが抱えているし、誰もが抱えつづけるものだと考えるべきだ。

このような現実を理解した上で、管理職はメンバーのWill・Can・Know+Personalityを丸ごと理解する、
メンバーと一緒に見出していくという姿勢で関わっていく必要がある。

メンバーと一緒にWill・Can・Know+Personalityを見つけ、育てていく時間を重ねていけば、
必ず強い信頼関係が生まれるものだ。

管理職がメンバーとの信頼関係構築で気をつけるべきこと

メンバーとの信頼関係について気をつけたいことがある。
それは、「信頼関係は一朝一夕では築けない」ということだ。

ここまでの記事を読んでもらって、「よし、明日のMTGでさっそくWillを確認しよう!」
と前向きになってくれた方がいるかもしれない。だが、ちょっと待って欲しい。
もしあなたが大して好きでもないし、心を開いていない上司から「やりたい事ってある?」
「今後、どんなビジネスパーソンになりたいの?」「夢はある?」などと急に質問されたらどうだろうか。

「なんだか急に自分に関心を持ってくれたみたい、嬉しい!」とはならずに、
「急に距離感つめてきたけど何事だろう?」「ちょっと鬱陶しいな」などと、ややネガティブな気持ちを
いただくのではないだろうか。私がもし聞かれたら、
「はぁ、なんですねか…。ちょっとよくわからないです。」とはぐらかした回答をすると思う。
相手によっては気持ち悪いと感じてしまうかもしれない。

私も管理職になりたての20代後半は、夢とか将来のビジョンをいきなり、すべてのメンバーに聞き回っていた。
そんな折にあるメンバーから、次のような一言をもらった事がある。
「なぜ、そんな個人的な事を話さなければいけないのですか? 中野さんは熱いというより暑苦しいです。 」

この一言をもらった時は本当にショックを受けたが、よくよく考えてみると、
Willや価値観など個人の内面やプライベートに深く関わる問いは、聞けばすぐに答えてくれるものではない。
信頼している相手でなければ話してくれないものだ。

「俺はまだ信頼されていないのだ…」 ということを強烈に学んだ。
管理職はこの現実をしっかり認識しておくべきだ。 信頼関係は一朝一夕では築けない。積み重ねが大切だ。
同じ部署で長いこと一緒に仕事をしている、ということで築かれる信頼もあるが、
深い内面にタッチすることを話してもらうためには、それだけでは足りない。

相談にのり、的確なアドバイスをする。部下が困っているときにはすぐに助ける。
トラブル時には矢面に立って部下を守る。面倒なことから逃げない。部下に過失があったらちゃんと叱る。
約束を守る。
など、「ありがたいな」「頼もしいな」と感じてもらえる実績を積み重ねていかなければならない。

人間関係をつくるときの基本。それは上司と部下の関係でもまったく変わらない。
時代がデジタル化し、SNSやアプリの普及によってコミュニケーション量は増大し、
やり取りも高速化した。

だからと言って、信頼関係構築が高速化し、お手軽になったわけではない。
変わらずに時間が必要なものもある、という事を忘れないようにしたい。

それではまた。

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執筆者

中野 崇のアバター 中野 崇 ビジネスプロデューサー/ビジネスデザイナー

・法人向け:新規事業開発と組織開発の伴走型・自立支援型コンサルティング
・個人向け:自分らしいキャリアデザイン支援(コーチング)
・モットー:家事育児、ときどきビジネスデザイナー
・抽象概念と具体的施策の間をつなぐ実践知の体系化が得意
・好きな漫画:「うしおととら」「キングダム」「清く柔く」 など

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