組織であることのメリットは、同じ目的・目標に向かって多くの人間が業務を邁進することで、
達成確率や達成スピードを速められること。より大きい・難しい目標達成に挑戦できる事などが挙げられる。
しかし、組織の規模が大きくなると「同じ目的・目標に向かって、同じ気持ちで邁進する」という事が
非常に難しくなる。結果的に、調整・交渉・根回し・地ならしなどが必要になってしまう。
最悪の場合は、足の引っ張り合い・いがみ合いさえ発生し、組織化するメリットが失われてしまう。
このような事態を予防し、組織が健全な状態を保つために必要なのが情報流通のマネジメントである。
適切な情報が、適切な人に届いていないとき、そこに不安・誤解・疑心など負の感情が生まれる。
丁寧に伝えれば合意できることが、情報不足によって実現されていないシーンを何度も見てきた。
会社全体に時間的余裕(ゆとり)があれば、何気ない会話・ゆるい会話が至るところで生まれ、
そうしたゆるい会話を通して、多様な情報が自然に広がっていくものである。
しかし現代はどの会社も忙しく動いており、生産性の追求に躍起になってもいる。
ゆるい会話量は間違いなく減っているだろう(測定していないが、皆さんも実感しているはずだ)。
したがって、情報が自然に広がっていくことを期待するのはリスクでしかなく、
「情報が伝わる仕組み」を意図的に設計する必要性高まっているのである。
情報の流通ルートは大きく3つある。それは「経営→社員」「社員→経営」「社員→社員」である。
情報流通のマネジメント① 「経営→社員」ルート
「経営→社員」は経営が社員に伝えるべき情報、社員に理解してほしい情報を流通させるルートだ。
代表的な情報としてはビジョン・経営戦略・経営目標・業績・基幹人事・資本提携・業務提携などだろう。
上場企業であれば広報やIR部門が発信している情報だと理解すれば良い。
これら情報は経営の意志が大きく反映されるため、背景や詳細を丁寧に従業員に伝えなければならない。
この説明をおざなりにすると、
社員が会社のビジョンや目標と自分の業務をつなげにくくなり、
モチベーション低下・戦略の形骸化・面従腹背などが発生する。
この状況を放置すると「上が決めたことだから仕方ない」「とりあえずYESと言っておこう」
などの会話があちこちで聞こえてくる事になる。特に組織サイズが大きくなると症状が悪化し、
いわゆる大企業病につながるので注意が必要だ。
反対に、ビジョンや戦略の背景・目的を丁寧に伝え、社員が腹落ちした状態をつくることができれば、
戦略実行力は大きく高まる。
情報流通のマネジメント② 「社員→経営」ルート
組織サイズが30名以内であれば、組織長と所属メンバーとの距離感が物理的にも心理的にも近く、
メンバーが何を考えているか、どんなことを感じているかなど、組織のコンディション(いわゆる現場感)は
だいたい把握できる。
しかし会社にしろ部門にしろ、30名を超えてくると管理職の現場感は少しずつズレ始める。
どんなに自分が組織のコンディションに目配り気配りしていても、すべてを直接把握するには限界がある。
そこで中間管理職という役割が必要になり、中間管理職が現場で起きている問題を経営に伝える必要がでてくる。
もちろん、何でもかんでも伝えれば良いという事でもなく、
「経営の意思決定に影響があるかどうか」という基準で情報をスクリーニングし、優先順位をつける必要がある。
問題には重要なものから瑣末なものまで大小様々・千差万別だが、
経営の立場からすれば、事業インパクトが大きい問題から対処したい。
そうすると、この重要度の判定は非常に重要になってくる。
したがって、重要度の判定基準を経営や上司と事前に擦り合わせしておく事が大切だ。
たとえば次のようなイメージだ。
・トラブルはどんなに小さくても即時即日で一報をいれる
・A顧客の仕事については、毎週必ず進捗報告をする
・単価が⚫︎⚫︎円以上の案件は、見積もり提出前に必ず報告する
・⚫︎⚫︎さん(人材)については、ちょっとでも気になる事があれば相談する
・上記以外は、事後報告で構わない
中間管理職が現場情報を適切に吸い上げていれば、経営や上司に顧客ニーズや現場の実態などの
リアリティが伝わり、意思決定の精度が高まる。(もちろん、経営がそういった情報に耳を傾ける前提だが)
反対に、中間管理職が上に対する情報流通の意識が弱い場合、
経営が裸の王様になり、現場とのギャップが広がっていく。
ギャップが大きくなると経営と現場の信頼関係が失われ、ビジョンや戦略の実行度が大きく下がる。
注意が必要だ。
情報流通のマネジメント③ 「社員→社員」ルート
最後は「社員(部門)→社員(部門)」ルートだ。
社員間・部門間で情報が活発に流通していれば、「経営→社員」ルートで伝えた情報が、
社員間のルートをたどって補完的に伝達される。また、成功事例やトレンドなどが共有されやすくなり、
ナレッジマネジメントが自発的に進んでいく。
またこのルートで重要なのは、業務に直結する情報だけでなく、
「A部門のB君はソムリエの資格を持っているらしい」「最近入社したCさんは将棋の有段者らしい」など、
社員のパーソナリティや特技など柔らかい情報が流通することだ。
やわらかい情報は関係性の質が良くないと流通しないのだが、
関係性の質が高ければ、やわらかい情報含めて多くの情報が流通し、さまざまなメリットが生まれていく。
部門を超えた交流がうまれる。
部門横断プロジェクトが自然発生的に進む。
新しい問題解決アイデアがうまれる。
社内に活気がうまれる などだ。
間違いなく組織が活性化する。
効果を定量的に可視化したわけではないが、経営トップとしてその有用性は確信している。
管理職にはこの社員間・部門間交流が活発になる仕組み構築を期待したい。
こうして、「経営→社員」「社員→経営」「社員→社員」という3つの主要ルートで情報流通が活発になれば、
全社一丸となってビジョンや目標の達成に邁進する状態をつくることができる。
適切な情報流通は、一体感と戦略実行力を劇的に高めるのだ。
それではまた。