デスクリサーチをすれば、該当テーマや課題の概観はつかめるものだ。
しかし、どんなに丁寧にデスクリサーチを行っても必ず、「知りたい情報の一部しかない」「情報が古い」
「分析が甘い情報が多い」という状況に陥いる。
特に顧客が抱える課題の大きさ・優先順位・投資意欲などの意思決定のメカニズムのような、深い情報は
把握できない。顧客課題を深く・的確にとらえるために最も有効なのがインタビューだ。
インタビューには大きく2つの手法があり、
1つはFocus Group Interview(フォーカス・グループ・インタビュー)で一般的にはグルインと呼ばれる。
6人前後の対象者を集め、あるテーマについて“話し合い”をさせる手法だ。
参加者同士がそれぞれの発言内容に刺激を受けて、「あ、そうそうそれは私も思っていた」
「そういえば思い出したけれど、こんな事があった」のような相乗効果が期待できるため、
幅広い意見や多くのアイデアを収集する事が出来る。
もう1つはデプスインタビューという手法で、対象者とインタビューアーが“1対1”でインタビューする手法だ。
インタビュー相手と早期に信頼関係を構築できれば、生活や仕事の実態や課題を、
幅広く・深く引き出すことができる非常にパワフルな手法だ。
グループインタビューは成功すれば多くの発見を得られますが、
グループディスカッションを取り回すことが難しいこと・日程調整に柔軟性を欠くこと・
課題の深さやメカニズムを追求するには不向きなことから、あまり活用をお薦めしない。
ビジネスプロデューサーが習熟したいリサーチスキル② インタビュー
まずは手軽に実施できるデプスインタビュー(以降ではインタビューはデプスインタビューを指す)
の設計スキルを身につけるのが良いと思う。
インタビュー設計で考えるべき項目は次の通りだ。
●インタビュー設計で考えるべきこと
・インタビュー目的:インタビューを通じて、把握・検証・確認したいこと
・インタビュー対象者:-どのような人達を対象にインタビューを行うのか(対象者の条件)
・対象者の数(どのような人に、何名インタビューするのか)
・インタビュー項目:インタビュー目的を達成するための質問項目
・インタビュー時期:結果が必要な時期から逆算したスケジュール
インタビュー対象者を選ぶ視点
インタビュー目的を明確にするのが大前提だが、
インタビュー目的を達成するために「誰に・何を・いつ聞くのか」を整理していく。
特に「誰に話を聞くべきなのか?」という点は丁寧に設計する必要がある。
インタビュー目的が顧客課題の発見である場合、
そもそも課題をもっていそうな人・課題を認識している人を探す必要があるし、
課題を持っていても伝える意欲がない人に話を聞いても、良いインタビューにはならない。
課題を伝える意欲がある人、という観点も重要になる。
またインタビュー対象者が「ターゲット顧客を網羅していること」も非常に重要だ。
すべてのビジネスには顧客やこれから顧客になってもらいたい候補(=ターゲット顧客)がいて、
ターゲット顧客は性別・年齢・ライフステージ・業界・部門・職業・保有予算など、
何らかの切り口で絞り込まるはずだ。
もし絞り込まれていないならば、まずターゲット顧客を決めることから始めるべきだが、
そのターゲット顧客をカバーするような対象者選定をする必要がある。
しかし、現場ではこうしたターゲット顧客が曖昧なまま、
何となく聞けそうな人・聞きやすい人にインタビューしている・・・という事がよく起きている。
本当は、自社商品に不満をもっている人から課題を聞き出すべきなのに、
関係性が深い担当顧客にインタビューする。
本当は、ターゲット顧客である30代の未婚女性から健康課題を聞き出すべきなのに、
40代・既婚女性の配偶者や同僚のインタビューで代替してしまう…などだ。
これらは、インタビューの目的や重要性を理解していない為に起こる事もあれば、
聞くべきインタビュー対象者を探すのが難しいが故に起こることもある。
前者は改めて主旨を説明すれば回避できるが、後者では社内外のネットワークの広さが重要になる。
自分のネットワークだけでなく、同僚・パートナー企業・家族・友人・知人・パートナー企業などから、
ターゲット候補に近い人を紹介してもらう・SNSで呼びかける。
一定の予算があれば、ビザスク・ミーミル・ミルトーク・Sprintのような有料インタビューサービスを
活用する、調査会社に対象者リクルーティングを依頼するなど。さまざま手段で対象者を探していく。
対象者を探せずにインタビューが実施できないと、顧客課題の設定が進まない。
あるいは、完全な仮説や勘で課題設定を進めることになるためリスクが大きくなってしまう。
「インタビューを設計し、計画通りにインタビューを実行できること」、
あらゆるビジネスの成功確率を左右する重要ポイントだ。
ビジネスプロデューサーは、インタビューの重要性を強く認識し、
設計力の習得と実現可能性を高める社内外のネットワーク構築を心がけてほしいと思う。
極めて主観的な感覚だが、ターゲット顧客ごとに5人インタビューすれば50%、10人で70%、
20人にインタビューすれば90%の課題感がわかると感じている。
時間対効果(費やした時間に対して発見が増えていく度合い)が高いインタビュー人数は、
ターゲット顧客ごとに5~10名だと考えているので、人数設計の目安にしてもらえば幸いだ。
インタビュー項目の設計
インタビューで何を聞くのか=質問項目を考える際に最も重要なのは、
「インタビュー目的に合致しているか」である。
どんなときでもインタビュー目的を忘れない事が大切だ。
質問項目を考える際によく発生するのが、
知的好奇心が刺激されて「あれも聴きたいこれも聴きたい病」にかかる事である。
この病に気づかないまま質問項目を考え続けると、気づけば質問項目が何十個も挙げられていることがある。
そのズラッと並んだ質問項目を眺めていると、妙な達成感を感じるときがあるのだが、
そのような時ほど(今回のインタビューでは)不必要な項目が紛れ込んでいたりする。
インタビューはだいたい1時間前後になるので、あれもこれも聴く時間はない。
「その項目は本当に必要か?目的に合致しているか?」をチェックする事をぜひ心がけて欲しい。
そもそも質問項目が増えてしまうのは「仮説をもってない」ことが要因だ。
仮説とは「まだ未検証だが、現時点で把握している情報をもとに考えられる、最善に近い仮の答え」である。
インタビュー目的がターゲット顧客の課題の発見であれば、
このような課題をもっているだろう・優先順位はこうだろう・このような意志決定をするだろう/しないだろう、
という課題の仮説を事前に考え、それを確認できる質問をインタビュー項目として設計していく。
「課題がわからないからインタビューで課題を発見したいわけで、仮説なんて考えられない」
と考えてはいけない。デスクリサーチで関連情報を集めれば必ず何らかの手がかりは得られますし、
デスクリサーチ結果を持ち寄って、チームメンバーで課題の仮説をもつためのブレストを行えば、
何らかの課題の仮説が必ず出てくるものだ。
仮説なきインタビューは失敗すると言っても過言ではない。
事前に仮説を考えてインタビュー質問項目に落とし込む、というステップを必ず押さえおこう。
仮説思考の重要性は『仮説思考2.0』という書籍にまとめているので、興味があればご覧いただきたい。
インタビュー実施時期については期限から逆算して決めていくが、
話を聞きたい人を見つけること・話を聞きたい人の予定を押さえることは難しく、
想定以上に時間がかかります。
インタビュー対象者の難易度が高い場合、探し始めてから最初のインタビューが1~2ヶ月後に
実施されるという例も珍しくない。インタビューは時間がかかる事を念頭に、
余裕をもったスケジューリング・早めの設計開始が重要になることも、覚えておいて欲しい。
それではまた。