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【ビジネスプロデューサー⑯】#7 伝達力 >言語化力・図解力

解決策の実行段階では、課題設定や解決策を検討していた初期メンバーだけでなく、
関連部門を上手く巻き込まないと業務が進まないため、関係者が多くなる。

新しくプロジェクトや業務に関わるメンバーは、過去の議論や検討に参加していないため、
既存メンバーとのインプットや関与度に差がある。
概要だけ簡単に説明しても新規メンバーの理解はまだまだ浅く、
意義や必要性を十分に感じてもらえないため、結果的に解決策を実行してない事もある。

実行されなければすべての戦略・施策は絵に描いた餅なので、非常に困ってしまう。
冷静に考えてみると、初期メンバーはお互いのWill/Can/Know+Personalityを理解し合い、
相互理解を深めながらチームビルディングをしている。

一緒に仕事をする時間も重ねているので、チームの成熟度も増しているし、
向き合っている課題解決へのモチベーションも高まっているはずだ。
新規メンバーとも、初期メンバーと同様に相互理解からはじめて、丁寧にチームビルディングできるのが
理想だが、関係者も多く、時間確保やスケジュールの制約もあるため、現実的には難しい。

したがって、初期メンバーと新規メンバーとの間に大きなインプットの差、関係性の差、
モチベーションの差があることを認識し、ビジネスプロデューサーがその差を埋める必要がある。
その際に武器になるのが「伝達力」だ。

伝達力は、適切に言語化しわかりやすく図解して周囲に伝える言語化力・図解力(論理優位型)と、
「やってみよう・面白そうだ」と人のやる気に火をつけるストーリーテリング力(情理優位型)を、
ビジネスプロデューサーが身につけるべき重要スキルとして位置づけている。

目次

ビジネスプロデューサーのコアスキル #7 伝達力
言語化力・図解力×ストーリーテリング力

ビジネスプロデューサーとしての言語化力とは

言語化は「人が考えていること・感じていることを言葉で表現し、共通認識を形づくること」である。
自分だけではなく、相手が考えていること・感じていることも言語化の対象に含んでいる。
言語化の対象が自分の場合は思考力・内省力がベースとして必要になるが、
言語化の対象が他者の場合は加えて想像力・共感力が必要になる。

人間は言葉があるから思考をすることができ、他者とコミュニケーションをとることができる。
言葉はコミュニケーションの手段なので、言語化をスキルとして語るときは、言葉で表現するにとどまらず、
共通認識を形づくる事までを期待したい(特にビジネスプロデューサーは)。

図解力はその名の通り「図を使って解説すること」である。
言葉や文章だけでは理解が難しい内容も、図を使って全体像や情報同士の関係性や説明することで
わかりやすくなり、多くの聞き手の理解や興味喚起を促すことができる。
また、図解は情報の取捨選択を行うことが前提になるため、全体の情報量が減って聞き手の負担が軽減される。

言語化力と図解力は切っても切り離せない(むしろ切り離してはいけない)スキルだ。
言語化力が高くて図解力が低い場合、メールやチャットなど比較的短い文章で完結できる物事については、
的確に伝えることができる。しかし、複雑な物事を文章だけで説明しようとすると文章量が多くなり、
(文章は洗練されていたとしても)読む気になってもらえない・読み手の読解力によって理解度にバラツキが
うまれるなどの弊害がでる。

PPTやWordで文字がびっしりの説明資料を添付しても、基本的には最後まで読まれないと心得よう。
丁寧に読み込んでもらえれば理解できるはずだ、と他責にしてしまうのは伝える側の怠慢でもある
伝達、というかコミュニケーション全般において「相手に的確に伝わったかどうか」が成果を測る基準である。

最後まで読まれなかったならば、伝える側の力量・工夫・配慮が足りなかったととらえたい。
他責にするよりも、そうやって自責にした方が伝達力は高まっていくものだ。
(もし資料を開封すらしてもらえなかったならば、それは伝達力の問題ではなく巻き込み方そのものに
 問題があるとも言える)。

反対に図解力が高くて言語化力が低い場合、図解によって情報量が減ってわかりやすくなっているので
読み手の理解は進むが、使っている言葉の精度が低いと、図と言葉が合っていなくて頭を混乱させてしまう。
悪い場合、ミスリードを促進してしまうという弊害がある。
したがって、多くのステークホルダーの理解を促して行動につなげる為には、
言語化力と図解力をともに駆使した資料作成が必要になる。

ではそれぞれ、どのようにスキルを高めれば良いのだろうか。

言語化力に必要なのはボキャブラリーと想像力

言語化力にまず必要なのは正確な語彙(ボキャブラリー)である。
要するにどれだけ多くの言葉を正確に知っているかどうかですね。主に読書によって養われる。

読書を通して多くの言葉に触れ、わからない言葉があったら辞書で正確に調べる、
ちょっと調べて理解しきれなければ納得できるまで調べるという行動を繰り返すことで、語彙は増えていく。
語彙を増やす目的を考えると、読書も特定ジャンルに偏らず多ジャンルで行うと効果的だ。

また語彙を増やすためにはWEB上の情報よりも書籍の方が適している。
というのも、WEB記事の文字数は1,000字~3,000字、SNS投稿だと数十が一般的で多くても数百が相場だ。
WEB上の情報は基本的に隙間時間でサッと読んでもらう事を目的にしている為、
文字数は少なくなり言葉も平易なものが選ばれる。平易で使用頻度が高い言葉の方が多くの人に伝わるからだ。

つまり、WEB記事は同じような言葉が使われやすい構造があるのである。
伝える側からすると当然の判断でもあるが、語彙を増やすという目的には合致していない。
書籍の文字数相場は80,000字~120,000字と言われている。
文字数と語彙数は一般的に相関しますから書籍の方が多くの言葉に触れられるという訳だ。

もう1つ、言語化力に必要なのは「想像力」だ。
どれだけ正確な語彙をもっていても、聞き手が認識できない言葉を使っていたら意味がない。
専門用語を使いまくる大学教授の話、流行りの横文字を使いまくるビジネスパーソンやコメンテーター。
話し手に悪気はないと思うが、伝達目的が話すことになっていて聞き手の理解や行動を促すことに
なっていない代表例だと思う。
話の聞き手の知識量や興味関心を想像して、彼らの理解や行動を促す言葉選びをする必要がある。

言語力が最大限活かされるのは、チーム内での共通言語をつくるために「言葉の定義を行うとき」だ。
チームで仕事をする場合は言葉の定義に共通認識がないと、コミュニケーションが非常に難しくなる。
言葉の定義が不一致によるミスや齟齬は気づきにくい事も多く、発見が遅れて致命傷になることも多い。

言葉の定義は重要だが、定義を厳密にやりすぎると弊害も多く発生するもの。
言葉の定義については、ビジネスプロデューサーが「このプロジェクトに定義が必要な鍵となる言葉は何か?」
という問いを立てて、プロジェクトやチームの状況に合わせた実用最小限の言葉をピックアップしよう。

図解の力

続いて図解力だ。
言葉・文章だけでなく図を使って説明することで、物事の全体像・関係性を伝えやすくなる。
図解の価値は周知だと思うが、念のため簡単に触れておこうと思う。以下の図をご覧いただきたい。

図解の価値 Before-After(執筆者作成)

実は、図解前と図解後の文章量はほとんど同じである。
図解前は文章だけの構成だが、文章量もあまり多く無いため、読めば何となく概要は理解できると思う。
しかし実は重要な点が伝わらないリスクを孕んでいる資料なのだ。

このページで最も伝えたいことは、「検証ポイントとプロトタイプの種類を対応させて検討すべし」ということ。
したがって、

・独自価値やソリューション仮説が本当に課題を解決するかを検証する →ペーパープロトなど
・使いやすさ・操作性を検証する →モックアップ
・体験全体の心地よさ →MVP

のように、検証点をプロトタイプの対応関係を考えることが重要、という点を伝えなければならない。
しかし、図解前ではUXとUIが不用意に一文にまとめられているし、
プロトタイプ種類を紹介する順番にも基準がない。検証点とプロトタイプ種類の対応関係もわからない。

つまり、構造化が不十分なのだ。
一方で図解後のページは、それらがすべて視認性高く、わかりやすく表現されている。
加えて色の濃淡で制作金額の大小まで補足するという配慮も感じられる。これが図解の力である。

図解力を高めるのは練習あるのみ

図解力を高めるため方法は2つしかない。
1つは良い図解をたくさん見ること。もう1つは日々の資料作成で図解を練習することだ。

図解に関する書籍も数多く出版されているし、Googleで図解というキーワードでImage検索するだけで
たくさんの図解画像が表示される。言語化力に多読が必要であるのと同様、
色んなジャンルの図解を幅広く見て、図解の引き出しを増えやしていこう。
そして、使えそうだなと思ったら日々の資料作成でどんどん活用してみることが大切だ。

ところで、私が最初に図解力の必要性を感じたのは韓国支社に取締役として赴任したときだ。
オフィスはソウルで社員は約200名。もちろん社員は韓国人なので日本語は通じない。
その会社が当時業績不調に陥っていた為、経営再建をミッションに日本人2名で駐在。
会話や資料作成は韓国語・ハングルになるので、すべてのコミュニケーションに通訳・翻訳が必要だった。
経営再建というミッションだったので、事業戦略や人事制度の見直しという経営レベルの改革、
営業の商談管理・案件管理の仕組み改善、管理会計の基準見直しなど幅広いテーマの資料作成が必要で、
そもそも通訳者・翻訳者が内容を的確に理解できないという事態がよく発生した。

翻訳者・通訳者に日本語で作成した資料を丁寧に説明し、質疑応答を受けて内容理解を促進。
それからハングルに翻訳してもらってようやく資料が完成。1つの資料作成にかなり手間がかかっていた。
また、苦労して資料作成したものの、私の資料作成力が低かったことに加えて商習慣の違い・翻訳の精度問題
などもあり、意図したことが全然伝わらない事が頻発。伝達力に大きな課題があった状況だ。

そこで行った対策が図解のフル活用である。
図解を軸に資料をつくれば、文章が減るので翻訳の手間やミスが大きく減少する。
また、簡単な単語だけで資料を構成すれば、自分の拙い韓国語力で直接入力が可能になる。

何より、図解によって議論の対象を構造化し各情報の関係性を表現できれば、
商習慣やコンテクストに違いがあっても今よりは理解してもらえるだろう、と考えたのだ。
それまでは特に意識的に図解を使っていなかったのだが、その重要性に気づいてからはMTGメモや
自分の走り書きも基本的に図解で書き起こす、社内ナレッジサイトにある良さそうな資料を片っ端から見る、
図解が得意そうな戦略コンサルタントやデザイナーの書籍やWEB記事を探して読み漁る、
という事をひたすらやった。

そうしているうちに何となく図解のコツのようなものが体感できるようになり、
ある瞬間から図解力が一気に高まった手応えがあった。
その甲斐あってか(?)、赴任後半年後くらいから赴任先の経営陣・部長陣とのコミュニケーションが
非常に円滑になり、議論の質が高まっていったように思う。

余談だが、このコミュニケーション課題は先方も感じていたようで、
特に当時のNo.2だった取締役(もちろん韓国人です)がある時期から急に資料の作り方が変わり、
私と似たような体裁で図解を多用するようになったときは強烈な共感を覚えたものだ。

図解力は、国境・商習慣・コンテクスト・知識量などの差を埋められる強力な伝達スキルなのだ。

それではまた。

❏書籍紹介
ビジネスプロデューサーの仕事を、新規事業開発の企画プロセスと重ねて解説しています。
よろしければ手に取ってみてください。
>>『多彩なタレントを束ね プロジェクトを成功に導く ビジネスプロデューサーの仕事』

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執筆者

中野 崇のアバター 中野 崇 ビジネスプロデューサー/ビジネスデザイナー

・法人向け:新規事業開発と組織開発の伴走型・自立支援型コンサルティング
・個人向け:自分らしいキャリアデザイン支援(コーチング)
・モットー:家事育児、ときどきビジネスデザイナー
・抽象概念と具体的施策の間をつなぐ実践知の体系化が得意
・好きな漫画:「うしおととら」「キングダム」「清く柔く」 など

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