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【新規事業開発の企画③】その事業は、誰の・どのような課題を解決するのか

新規事業の企画をプレゼンテーションする日時が決まったら、さっそく具体的な企画を考え始めよう。

目次

新規事業の企画は、顧客課題をとらえる事から(王道中の王道)

まず考えるべきは「誰の・どのような課題を解決するのか」という事だ。

すべての人が仕事上・生活上それぞれでこうなりたい・こういう状態にしたいという「ありたき姿」を
持っている。しかし、そうなっていない「現状」があり、そこに生まれているギャップが「課題」である。

ところで、新規事業の現場だと顧客とユーザーという言葉が混在して使わるが、
私は顧客=「自社に対してお金を払ってくれる人」、ユーザー=「提供するサービスを実際に使う人」
と定義している。お金を払ってくれる人とサービスを使う人が同一の場合は顧客と表現する。

たとえば、企業人事が社員向けの従業員満足度アンケートシステムを外注していた場合、
人事は顧客でありユーザーだが、アンケートを回答する社員もユーザーであり、
顧客とユーザーがそれぞれ存在する事になる。
その場合は、顧客とユーザーそれぞれの課題を抽出する必要があるということだ。

この無数にいる顧客候補の中から、「誰の課題を解決すべきか?」を決めなければならない。

出発点となるアクションとしては、既存顧客の課題を幅広くヒアリングするのが良いだろう。
BtoBにしろBtoCにしろ、すでに自社サービスを購入している顧客とはある程度の関係性があるため、
ヒアリングする機会をアレンジしやすいはずだ。

ヒアリングは、必ずあなた自身が直接顧客へインタビューしよう。
追ってアンケートなどの定量調査を活用する事もあるが、まずは顧客の生声に触れていく事が非常に重要だ。
既存顧客へのインタビューでは、まず自社サービスの満足度や現在の課題などをヒアリングしていくが、
もっとも留意すべきは「顧客の課題範囲を既存サービスに限定しないでヒアリングすること」である。

ヒアリングの目的は新規事業につながる新しい課題を見つけることである。
ヒアリングの入り口として既存サービスの満足度を伺うのは定石だが、
目的を意識した質問を投げかけないと顧客からは「特に課題はありません」という回答しか得られないもの。

これは本当に課題がないのではなく「(御社に相談するような)課題はありません」ということであり、
顧客が既存サービスの範囲でしかあなたに期待していない、という前提があるのだ。

したがって、こちらから「既存サービスの範囲を超えて新しい領域で事業開発を検討しているのですが、
部門やご自身のミッションと、その達成における課題感を幅広く伺ってもよろしいでしょうか?」のような
質問を投げかける必要がある。

そうしていくつか課題がでてきたら、その中で自社の強みが少しでも活かせそうな領域を深堀りしていく。
顧客インタビューを重ねていくと、既存顧客の中でも自分たちが把握していなかった課題や、
多くの顧客が共通して抱えている課題などが見えてくるようになる。

既存顧客の課題感がつかめてきてから、類似の課題を持っている新規顧客は誰だろうか?と考えて、
人脈などを活用して新規顧客候補へもインタビューを進めていく。
最低でも10名~20名のインタビューは行って欲しい。

インタビュー実施後は、集めた課題を以下3つの観点で比較検証します。

  • 課題の大きさ
  • 課題解決の優先度が高いか(期限が切られているか)
  • 解決のためにお金を払う意欲があるか

大きくて、すぐにでも解決したいほど優先度が高く、その解決にお金を払う意欲(予算)がある課題が、
新規事業で解決対象として選ぶべきものだ。

あらゆる人の価値観や優先順位は、最終的に「何にお金を使っているか」「何に時間を使っているか」
に集約される。

従って、お金の課題=本当はお金を使いたいと思っている物事、時間の課題=本当は時間を使いたいと
思っている物事をとらえて、それを実現する事業・プロダクト・システムをつくる事ができれば、
きちんと使われるものになり、売上獲得・顧客獲得の確率も高まっていく。

インタビューで注意したいのは、「●●が課題なので解決されると嬉しい」のような意見が出て来ても、
「いつまでに解決される必要がありますか?」「いくらならば払って貰えますか?」と期限や金額を
具体的にヒアリングしていくと、「何ともいえない」という柔らかい回答が返ってくる。

顧客の回答が柔らかい=具体的な検討が進んでいない=切迫度が低いという事なので、
この課題を解決するサービスをつくっても、きっと購入してもらえない。

顧客課題起点では新規事業やイノベーションは生まれない?

顧客課題をとらえる重要性の話をすると、
「新規事業は新しい価値創造だから顧客に聞いてもわからないし、顧客課題をとらえる必要もない」
という主旨の反論を聞くことがある。

このような反論をする人の頭の中には、
「顧客は答えを持っていない」「インタビューやリサーチをしても新しいアイデアはなかなか見つからない」
という前提がある。いずれも正解である。顧客は答えをもっていないし、新しいアイデアが顧客から必ず
出てくるわけではない。しかしだからと言って、顧客課題をとらえる事やリサーチが不要というのは短絡的だ。

そもそも顧客が関心をもっているのは「課題が解決されることで得られるより良い状態(=価値)」であり、
極論すれば求めている価値を得られるならば解決策は何でも良いのだ。

解決策自体のアイデアやヒントを顧客に求めてはいけない。それを考えるのが企画チームの役割だ。
よく引用される例だと思うが、いまや全世界で約30億人が利用していると言われるFacebookも、
当初からいわゆるSNSとして開発されたわけではない。

2004年に創業したFacebookの初期的サービスは、簡単にいえば「大学生同士が自分のプロフィールを公開して、
手軽に友達をつくれること」に特化したもので、たった8つの機能しかなかったと言われている。
「もっと手軽に友達をつくって楽しい学生生活を送りたい(けど現状はそうじゃない)」という課題を
解決するために、実用最小限の8つの機能を搭載してFacebookが誕生。そこからの快進撃は周知の通りだ。

顧客課題をとらえて、まずは実用最小限の解決策を手早くつくって世の中にだし、
顧客からのFeedback(データや生声)をサービスや事業の成長に活かしていく。
そのようなアプローチとしては世界で最も成功した事例だろう。

新規事業という言葉を聞くと、なぜかAI・PRA・ブロックチェーン・メタバースなど、
キャッチーで耳障りの良いテクノロジー活用から始めてしまう企業が多い。

先日、メタバース界隈のスタートアップCEOが集まるMeet-upに参加したが、
「メタバースが世の中のどんな課題を解決するのかは、まだ明確になっていない」
と全員が口を揃えて語っていた。

それが見つからない限りは、メタバースがお金を生む事業にはつながらないと思う。

それではまた。

❏書籍紹介
ビジネスプロデューサーの仕事を、新規事業開発の企画プロセスと重ねて解説しています。
よろしければ手に取ってみてください。
>>『多彩なタレントを束ね プロジェクトを成功に導く ビジネスプロデューサーの仕事』

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執筆者

中野 崇のアバター 中野 崇 ビジネスプロデューサー/ビジネスデザイナー

・法人向け:新規事業開発と組織開発の伴走型・自立支援型コンサルティング
・個人向け:自分らしいキャリアデザイン支援(コーチング)
・モットー:家事育児、ときどきビジネスデザイナー
・抽象概念と具体的施策の間をつなぐ実践知の体系化が得意
・好きな漫画:「うしおととら」「キングダム」「清く柔く」 など

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