ターゲットが決まったら、ターゲットに対してどのような価値・ソリューションを提供するかを考えていく。
価値とは「顧客が抱えている課題が解決することで、顧客が受け取るポジティブな変化」であり、
独自価値は「自社だけがターゲットに提供できるポジティブな変化」だ。
英語でUVP:Unique Value Propositionとも呼ばれる。
前述のユニクロの例でいえば、フリースやヒートテックなどに代表されるように高い防寒・保温機能を
持ちながらも安価、という両立しにくい価値を実現したことが独自価値である。
そしてその独自価値を実現可能にしたのが「高い商品開発力」と、安くて軽くて暖かいアウターが欲しい・
重ね着は格好悪いし動きにくいという課題を的確にとらえた「課題設定力」という強みだったと言える。
ところで、この記事でソリューションという言葉を始めて使っている。
最初に定義をお伝えすると、
ソリューションは「ターゲットの課題を”解決する”独自価値を、実用化に向けて具現化したもの」だ。
具現化はQuality(どのような機能・性能にするか)・Cost(課金形態や価格はどうするか)・
Delivery(価値を受け取れるまでの納期)というQCD観点を押さえるのが王道である。
再びユニクロの例でいえば、重ね着は暖かいけど格好わるくて動きにくいという課題に対して、
着ると暖かいインナーという独自価値が、ヒートテックというソリューションとして具現化されている。
ソリューション=商品やサービスという意味として理解してもらって良いのだが、
わざわざソリューションという言葉を使うことにも意図があったりする。
ちょっと別の例で考えてみよう。2022年3月現在、リモートワークの増加によって
「MTGが増えて、画面を見っぱなしなので目の疲れがしんどい」という課題を抱えている人は増えている。
その課題に対して3つの価値とソリューションを考えてみる。
①目の疲れの実感を緩和する価値→うるおい&爽快感が長時間持続する目薬
②目を疲れさせる原因を削減する価値→ブルーライトをカットするメガネ
③目のお疲れ度を手軽に測定できる価値→目を撮影すると疲労度が数値されるアプリ
この①②③はすべてソリューションだろうか?
答えは「いいえ」である。
①の目薬と②疲れの実感を緩和するメガネは疲れの原因の削減をしているので、
「目の疲れがしんどい」という課題を一部だが解決しているソリューション(解決策)と言えるだろう。
一方で③の目の疲労度が数値化されるアプリは、「へぇ」とは思うかもしれないが、それだけでは目の疲れを
まったく緩和しない。その意味では課題解決につながっておらずソリューションとは呼べないのだ。
③がソリューションになるのは、「目の疲労度を客観的数値で把握したい」という課題に対してである。
ソリューションになっていないものは、当然使われないので売上にも繋がらない。
これから作ろうとしているものが独自の価値提供をしているか、
ソリューションになっているかという観点を忘れないようにしよう。
新規事業の企画を進めていく中で、課題は捉えられたもののそれを解決するための独自価値や、
ソリューションのアイデアを考えだすのが難しい、というご相談をいただく事がよくある。
私が関与したプロジェクトの中にも「で、これは結局どのように解決すれば良いのだろうか?」と
ソリューションを考える段階で壁にぶつかる事はよくあった。
ここを突破する鍵は「着想力」である。着想力とは「アイデアや工夫を思いつける力」だ。
いやいやアイデアが思いつけないから困っているのに、鍵が着想力だといわれたら元も子もない…と
思われたかもしれない。ある意味それはその通りなのだが、着想力は意識的に高めることができる。
着想の源は知識である。そして知識は、学習や経験の量に比例して増えていく。
さまざまな経験をしている上に、勉強熱心な人はいきおい着想力が高いものだ。
早稲田大学ビジネススクールの入山章枝氏が、イノベーティブな人材としてよく紹介している
ゴーゴーカレーの創業者・宮森宏和氏も「発想は移動距離に比例する」という発言をされている。
私も非常に共感している。
したがって、着想力を高めるためには、学習や経験の「幅」と「深さ」を増やし続けることが有効となる。
幅を広げるためには「好奇心」をもってさまざまな物事に触れてみること、挑戦してみること。
深さを増すためにはなぜそうなっているのだろう?という「探究心」をもって、構造や原因を深堀りすること。
好奇心で幅を広げて、探究心で深堀りしていけば、学習や経験から得られる知識の面積が格段に広がっていく。
ただ、このような知識の土壌を獲得するには相応の時間が必要になるため、
解決策としては中長期的なアプローチだ。いま目の前で起きている課題解決のアイデアを見つけるためには、
「着想力がある人を連れてくる」ことが最善策となるだろう。
着想力が高い人をチームに巻き込んだ途端、本当に「ポンッ」と音がしたと感じるくらい、
速攻でソリューションアイデアが出たりする。下手の考え休むに似たりだなぁと感じる瞬間だ。
しか、しそのような人が周囲にいるとは限らないので、
チームでさまざまな知識・体験を担保する工夫が必要になる。鍵は「多様性」だ。
同質性が高いチームでは思いつかないアイデアも、多様性あるチームがさまざまな観点から
ブレストを行うことで、必ず何らかの新しいアイデアの種が生まれてくる。
アイデアの種を見逃さずに育てていけば、独自価値やソリューションアイデアが形づくられていくのだ。
独自価値やソリューションアイデアが見つからなくて困っているならば、
それはチームが保有している知識・経験の幅が足りないからだ。
ビジネスプロデューサーはそのような状況を打開するために、
どのような知識・経験をもっている人が必要なのかを見極め、
そのような人材を実際に見つけて連れてくる役割も担ってもらいたい。
チームにいくつかの核となるアイデアが生まれたら、
そのアイデアが火種となってメンバーからもさまざまなアイデアが出るようになるものだ。
ちなみに、アイディエーション(アイデアを出し合うこと)は複数名が集まってブレスト形式で行うことが
多いのだが、漫然と人を集めてアイディエーションを行っても良い時間にはならない。
参加メンバーの設計や、何に対してアイデアを出し合うのか・答えをだすのかという「問い」の設計、
参加メンバーの知見やポテンシャルが最大限発揮されるようなファシリテーションなど、
会議・場の運営力が必要になる事を理解しておこう。
アイディエーションが機能し始めると、大小さまざま・玉石混交のアイデアが手に入れられるが、
それらをすべて盛り込んだソリューション(よくあるのがプラットフォーム構想)を結論にしてはいけない。
全部盛りは投資が膨らむ上に開発工程でのリスクを大きく高めるし、
何より顧客にとって使われない機能が数多く含まれる。
また全部やるという意思決定は、企画チームが「優先順位を考え切れていない」ことの裏返しでもある。
顧客課題を解像度高くとらえていれば、どんな価値や機能がより重要なのかという判断ができるようになる。
アイデアがでないよりは多い方が嬉しいのだが、
最終的には「顧客の課題解決に直結する価値・機能に絞り込んだソリューションにする必要がある」
という事を、忘れないでもらいたい。
それではまた。