マーケティングに関連する情報に触れていると、需要・ニーズ・欲求など似たような言葉が登場するので
混乱するかもしれないが、いずれも意味合いとしては「人々が充足したいと感じている気持ち」と理解しよう。
文脈や文章の繋がりによって言葉が違うだけで、同じことを表していると考えて支障はない。
この記事では、顧客理解の文脈でよく使われるニーズやベネフィットという言葉について解説する。
ニーズにも種類がある
実はニーズの強さや認識度によって、ニーズは3つに分類することができる。
●顕在ニーズ:顧客が自分で言語化できている欲求
●潜在ニーズ:顧客が自分で言語化できていないが、投げかけられると認識できる欲求
●インサイト:顧客が自分で言語化できておらず、投げかけられてもハッキリと認識できないが、
顧客の行動や意思決定に大きな影響を与えている根源的な欲求
前記事同様、日焼けを題材にもう少し具体的に見てみよう。
顕在ニーズとは
まず顕在ニーズ。これは顧客が自分で言語化できている欲求のことである。
海や川に遊びにいく時、炎天下での外出時などは性別・年齢問わず「日焼けしたくないなぁ」と
考えるだろう。そして「なぜ日焼けしたくないのですか?」と問われたら、
多くの方が「日焼けすると痛い(痛くなりたくない)」「シミになる(シミを作りたくない)」
「肌が黒くなる(肌の色を変えたくない)」のように答えるはずだ。
3つの日焼けをしたくない理由は「肌を焼きたくない」ニーズとしてまとめる事ができる。
これらは顧客が自分で欲求を言語化できているので顕在ニーズといえる。
潜在ニーズとは
潜在ニーズとは、顧客が自分で言語化できていないが、確認されると認識できる欲求である。
たとえば日焼けに関するニーズとして、
「肌を焼きたくない」以外にも「部屋を汚したくない」という事が考えられる。
日焼けによって一時的な肌の変化を楽しみたいが、皮が剥けて部屋が汚れるのは掃除が手間で嫌だ、
と考える人がいるかもしれない。
このニーズを仮説として顧客に投げかけたときに、
「確かに部屋が汚れるのも嫌だな」と顧客が認識したならば、それが潜在ニーズである。
日焼け止め市場は基本的に「肌を焼きたくないニーズ」を満たすための商品が多いので、
「日焼けを楽しめるけど部屋を汚さない」という潜在ニーズに対して、日焼け後に塗ると皮がつながって綺麗に
剥けるクリームのような商品提案が考えられる。
インサイトとは
インサイトとは、
「顧客が自分で言語化できておらず、投げかけられてもハッキリと認識できないが、
顧客の行動や意思決定に大きな影響を与えている根源的な欲求」である。
インサイトは根源的な欲求なので、その人のニーズをWhy(なぜ?)でどんどん掘り下げていき、
最も深いところにある欲求のようなイメージだ。
このインサイトという言葉、人によって使い方や解釈にバラツキが大きい言葉なので、
もう少し丁寧に解説したいと思う。
インサイトという言葉を辞書で引いてみると「洞察」とある。
洞察とは、表面的な事象からその奥底にある物事の本質を見出すことだ。
本質とは、物事の根本をなす性質のこと。そして、あらゆる物事は人の心と行動からつくり出される。
世の中のあらゆる物事は、自然現象は例外として、誰かが創ろう!と心に思い、
実際に行動に移したからこそ具現化している。
したがって、インサイトとは「表面的な事象から、人の心と行動の本質を見出したもの」というのが私の解釈だ。
たとえば多くの人が「痩せたい」というニーズを持っているが、これは表面的なものであると捉える。
インサイトは、
「痩せて健康になって、1日でも長く家族の笑顔を見ていたい。それが自分の幸せだから。」だと考える。
痩せたいと考えている人々が、このインサイトを常に意識しているわけではないと思う。
しかし、根本的にはこのインサイトが彼らの心と身体を突き動かしている、と考えるのだ。
たとえば日焼けの例ならば、
顕在ニーズの場合は、「シミになるから嫌だ→シミがある自分の顔は好きじゃない」という所で終わらせずに、
「シミのない、綺麗な肌の自分を鏡で見ると、自分の事を好きでいられて自信を持てる」という
心の本質まで深掘りするというイメージだ。
潜在ニーズの場合でも、「部屋を汚したくない→剥けた皮で部屋を汚したくない」で終わらせずに、
「暑い日の休日は、掃除や家事に時間を使わずに、清潔な部屋でのんびりしたい」という所まで
深堀りするというイメージとなる。
インサイトを考える際に困るのは、どこまで深く掘り下げたらそれがインサイトと呼べるのか?という事だ。
答えはケースバイケースとしか言いようが無いのだが、インサイトは人の心と行動の本質なので、
インサイトをつく質問や回答が生まれた際に、「目が潤む、自然と笑顔になる、ハッと驚いた顔になる」
のような反応を見れることも多い。これを基準にするのも一つの手である。
インサイトは反射的に人の心と身体を動かすのだ。
投げかけた言葉が人の心を深く動かしていると感じられた時、
喜び・怒り・悲しみ・楽しさ・驚き・幸福感・劣等感など、心を深く動かしている様子が表情に現れた時、
そこにはインサイトが存在している、と私は考えている。
ベネフィットとウォンツ
ニーズやインサイトと合わせて覚えるべき言葉として、ベネフィット・ウォンツがある。
こちらもさまざまな使い方をされている言葉なので、私の解釈を紹介したいと思う。
ベネフィットとは
ベネフィット(Benefit)は一般的に、利益・便益・恩恵などと和訳される言葉だが、
マーケティング文脈では「商品やサービスが提供している価値」と理解するのが一般的だ。
価値とは「顧客に対して好ましい効果や変化をもたらすもの」である。
したがってベネフィットとは、
「商品やサービスが提供している、顧客に対して好ましい効果や変化をもたらすもの」という事になるが、
長くて覚えにくいので、シンプルに「ベネフィット=商品の提供価値」と覚えておこう。
たとえば気温が下がった冬の晩に、「手軽に身体を温めたい」というニーズを持ったとする。
このニーズを満たす方法として、
①マフラーで「首まわりを温める」
➁手袋で「手を温める」
③カイロで「貼った箇所を温める」
などが挙げられるが、この例における「首まわりを温める」「手を温める」「貼った箇所を温める」の部分が
ベネフィットです。物理的にはマフラー・手袋・カイロという商品を手にしますが、
いずれの商品も「身体を温める」というベネフィットを提供している。
また、身体を温めるだけでなく、たとえばバーバリーやエルメスのマフラーを身につけることで、
「優雅な気持ち」を得られるならばそれもベネフィットとなる。
前者の「身体を温める」は機能的価値、後者の「優雅な気持ち」は情緒的価値と呼び、
機能的価値と情緒的価値を合わせたものが、その商品が提供しているベネフィットだ。
私たちが何かを購入する際は、
自身が抱えているニーズを、商品が提供しているベネフィットを通して充足させているのである。
このことを企業視点で考えると、
企業は価値の提供を通して、顧客ニーズを充足させていく事で対価を得ており、
このニーズとベネフィットのマッチングを担うのがマーケティングだ。
したがって企業活動はマーケティングそのものとも言える。
ベネフィットをより詳しく理解するために、日焼け止めの事例で改めて確認してみよう。
肌を焼きたくない・部屋を汚したくないというニーズに対しては、
UVカットや保湿効果などの機能的価値が有効であり、
好きな人から素敵だねと言われたい・自分を好きになりたいというインサイトに対しては、
情緒的価値を期待させるコミュニケーションが有効という事になる。
ウォンツとは
ウォンツは普段あまり耳慣れない言葉だと思うが、
ウォンツは「ニーズを満たすための具体的手段への欲求」である。
「手軽に身体を温めたい」というニーズを満たすための、
「マフラーが欲しい/手袋が欲しい/カイロが欲しい」という具体的手段への欲求がウォンツだ。
要するに極めて具体的になっているニーズのことなのだが、言葉を使い分けてるのにも理由がある。
仮にウォンツという概念を知らない人が「マフラーが欲しい/手袋が欲しい/カイロが欲しい」という要望を
見聞きした場合に、これらを顧客ニーズだと捉える。
それはそれで間違いではないのだが、マフラーが欲しいという顧客ニーズを充足する方法は、
マフラーを開発するしかなくなる。解決の選択肢が非常にせまくなるのだ。
一方でこれはウォンツであり、ニーズは「手軽に身体を温めたい」だと捉えたならば、
手袋やカイロの他にも、保温性がある携帯湯たんぽ・超小型の充電式ハロゲンヒーターなどの
解決策が考えられ、ユニクロが提供しているヒートテックのように、いつも着ている洋服の保温性を大きく高める、
という発想にも繋がる。
ニーズはウォンツよりも広い概念であり、新しい解決策を生みだしやすい概念と言える。
マーケティング戦略を考える第一ステップは「顧客を理解し、顧客ニーズをとらえる」ことだが、
発見したいのはウォンツではなくニーズである。解決策の広がりを持った顧客ニーズをとらえる事で、
さまざまなベネフィット(提供価値)の可能性を考えることができる。
そして、この顧客ニーズを見いだせるかどうかが、マーケティングの入り口であり、肝でもある。
それではまた。