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【新規事業開発の企画⑧】ステークホルダーの分析と巻き込み

適切な仮説検証を終えて手にしている企画は、顧客課題をしっかりと解決するソリューションとなり、
かつ継続的に収益をつくりあげるビジネスモデルになっているはずだ。
この段階になると企画チームにも手応えが生まれてくる。

しかし、これまでの企画過程でステークホルダーを適切に巻き込んでいないと、
経営資源の獲得、特に予算獲得の難易度が格段に高まる。
いくら良い企画ができあがっても、予算を獲得できなければ事業開発・システム開発を行うことはできない。

目次

意思決定者の不安を払拭する

この記事を読んでいる多くの方は会社員だと思うが、企業で新規事業への投資を獲得するのは難しい。
基本的に失敗も多い新規事業なので、筋の良い企画だったとしても「それじゃやってみよう!」とすぐになる
ケースは稀なのだ。

私は、企業内で予算獲得のプレゼンテーションをする側の経験だけでなく、
プレゼンテーションを聞いて意思決定する側の経験もあるので、意思決定者側の気持ちも理解できるのだが、
ゴーサインを出せない主な理由は「不安」である。

経営者や上級管理職(本部長や執行役員など)は業務上で大きな売上・利益の責任を負っているため、
先行き不透明な新規事業へ投資するよりも、ビジネスモデルが確立されていてお金が回っている既存事業へ
投資した方が確実だと考えがちだ。

そのような発想は「社員の生活を守らなければいけないから冒険はできない」という責任感に起因している
事もあれば、「自分のポジションを失いたくない・失敗したときの責任を追いたくない」という、
保身に起因する事もあるが、どちらにせよ意思決定時には大きな不安と葛藤する事になる。

加えて、多くの場合で途中経過を知らされないままいきなり投資意思決定の場に招待され、
15~30分のプレゼンテーションを聞かされ、さぁどうでしょうと意思決定を迫られる。

プレゼンテーションが秀逸ならば企画を的確に理解できるのだが、
根拠が甘い・論理がつながっていない(もしくは著しく飛躍している)・資料が見にくいなど・・・、
聞いているのが正直しんどいプレゼンテーションもよくある。

また、内容を理解するために質問をしても回答が支離滅裂、そもそも質問に答えていないという
質疑応答も繰り返されるため、不安が増大する。

事前インプットも乏しく当日のプレゼンテーションも稚拙であれば、
1,000万円とか数千万円の投資をほいほいと出来るはずがない。

たとえば営業利益率が10%の会社であれば、
1,000万円の投資は既存事業がつくっている売上1億円に相当する投資になる。
1,000万円を使えば必ずお金は減るが、それに相当する既存事業の売上1億円は100%保証されている
わけではない。

プレゼンテーションをする社員にこの売上・利益の感覚が備わっていない事が多いので、
プレゼンテーションの質と要求してくる金額が非常にアンバランスになっているのだ。

新規事業企画プレゼンあるあるだと思う。
その要因は「ステークホルダーの巻き込み不足」と「プレゼンテーションの準備不足」である。

ここで図:新規事業企画のアプローチ詳細を改めて眺めてみよう

図:新規事業企画のアプローチ詳細(執筆者作成)

⑪ステークホルダー分析と適切な巻き込みも⑫Pitch Deck作成も、
顧客課題の発見と設定の段階から並行して進めていくことを表しているが、
それは予算獲得の確率をあげる為の準備は初期段階から始める、という事なのだ。

ステークホルダー分析の4ステップ

ステークホルダー分析の具体的な方法を確認していこう。
ステークホルダー分析といっても、内容は非常にシンプルで次の4ステップで完了だ。

ステークホルダー分析の4ステップ
ステップ1:DX新規事業の意思決定に関与する人を洗い出す
ステップ2:関与者を新規事業推進へのスタンス×影響度の大きさの4象限にプロットする
ステップ3:各象限に入った人ごとに巻き込み方・時間の使い方の計画を立てる
ステップ4:ちゃんと実行する

まず、新規事業の意思決定に関与する人(ステークホルダー)を洗い出そう。
どの会議体で承認されるのかがわかっていれば、最低限その会議の出席者は関与者と言える。
また、実質的にはそのような会議の前にキーパーソン間で内々の会話をするのが慣例になっている場合は、
その会話が誰と誰でなされるのかを押さえるのが良い。
社内に探りを入れていくと、実質的な意思決定ルートが見えてくるものだ。

ステークホルダーが洗い出されたら、
それぞれの人を新規事業開発に対して「共感的か抵抗的かという横軸」と、
「意思決定への影響度の大小という縦軸」で構成される4象限に配置する。

厳密には新規事業の企画内容によって顔ぶれや配置される位置は変わるのだが、
新規事業への投資スタンスは意思決定者の根幹的なビジネスへの価値観が反映されるため、
企画内容によって大きく変わらないことも多い。

したがって、企画が固まる前に初期分析でも充分に意味がある。

このステークホルダー分析は社内の根回し・地ならしに近いので気乗りしない業務でもあり、
私も出来ることなら避けたい業務なのですが、予算獲得という目的のためには間違いなく必要である。
したがって、少しでも楽しんでやれるように4象限のネーミングに遊び心を入れてみた。

共感的×影響度が大きい=「エンジェル」
・共感的×影響度が小さい=「助っ人」
抵抗的×影響度が大きい=「デビル」
抵抗的×影響度が小さい=「透明人間」   である。

ステークホルダーマッピング(執筆者作成)

「エンジェル」はもっとも力になってくれる存在なので、直接・間接問わず、
短時間でも良いので定期的にインプットを行ってComment&Feedbackをもらえる工夫を凝らす。
直接話せれば「頑張ってね」とか「期待しているよ」というポジティブな声掛けもしてくれるので、
チームのエネルギーチャージにもなる。まさに天使だ。

助っ人は意思決定への影響は小さいものの共感的なので、新規事業のWhy&Willを熱く語って、
プロジェクト支援に時間を割いてもらえないか協力打診しよう。
企画チームは基本的に最小限の人数で編成される事も多く、常に人手不足になる。
助っ人は、公式に異動やプロジェクト参画は難しくても、何かしら支援してくれる可能性が高い人達だ。
上手く巻き込んでいきたい。

デビルはもっとも攻略したいラスボスのような存在だ。
抵抗的なのでついつい接触を避けてしまいがちだ、「直接にこだわって」定期的にインプットを行い、
双方の主張の相互理解に努めよう。そもそも抵抗するにも理由があるわけなので、その理由を的確に
理解することでプレゼンテーションで対策が打てるし、事前インプットによって誤解も減らせる。
最終的に共感まではいかなくても、抵抗感を減らすことにも大きな意味がある。


最後の「透明人間」は、抵抗的だが意思決定に影響を与えない人々だ
。彼らからのネガティブな意見や反応が耳に入ってくる事もあるが、適当に受け流そう。
そういった声に、物理的にも精神的にも時間を使わないことが大切だ。

企業内新規事業では、デビルに向き合え

時間の使い方としては、①デビル ②エンジェル ③助っ人 の順に多く時間を割いていく。

デビルとエンジェルの順番に違和感を覚えたかもしれないが、体験的にはデビル⇒エンジェルの方が有効だ。
なぜならば、新規事業開発やDX推進など不確実性が高いプロジェクトへの投資意思決定が行われる場では、
強烈に反対する人が1人いるだけでゴーサインがでにくい(出るにしても余計に時間がかかる)からだ。

デビルに立ち向かっていくには心のエネルギーが必要になるが、
最初の1・2回を踏ん張れば案外慣れるので大丈夫だ。デビルというネーミングをしているが、
もちろんとって食われるわけでもなく、せいぜい冷たい視線と言葉を浴びる程度だ。
本当に慣れるので大丈夫です、安心して向き合ってもらいたい。

なお、特に大企業では意思決定に影響を与える人の立場が上過ぎたり、
風通しが悪い文化のために表立っては動きにくいという状況もあるかと思う。
そんな時は、秘書やアシスタントの方と仲良くなる・接点の多い部課長に協力してもらってアプローチする、
本人が発信しているメッセージや推進しているプロジェクトに積極的に反応したり、
実際に関与して話しかけるチャンスを伺うなど、やり方はいくらでもあるので工夫を凝らしていこう。

ちなみに経営陣ともなると、何かしらの突破力・腕力で結果を出した経験をもっている人も多く、
あの手この手でアプローチしてくる人材(特に若手)を見ると、昔の自分と重ねて意外にも
可愛がってくれたりするものだ。

そのような期待も持ちつつ、しっかりとデビルとエンジェルに時間を使い、予算獲得の確度を高めよう。

それではまた。

❏書籍紹介
ビジネスプロデューサーの仕事を、新規事業開発の企画プロセスと重ねて解説しています。
よろしければ手に取ってみてください。
>>『多彩なタレントを束ね プロジェクトを成功に導く ビジネスプロデューサーの仕事』

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執筆者

中野 崇のアバター 中野 崇 ビジネスプロデューサー/ビジネスデザイナー

・法人向け:新規事業開発と組織開発の伴走型・自立支援型コンサルティング
・個人向け:自分らしいキャリアデザイン支援(コーチング)
・モットー:家事育児、ときどきビジネスデザイナー
・抽象概念と具体的施策の間をつなぐ実践知の体系化が得意
・好きな漫画:「うしおととら」「キングダム」「清く柔く」 など

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