マーケティングの入り口としてまず理解すべきは既存顧客であり、顧客ひとりひとりである。
その顧客ひとりひとりが集まって形成されるのが市場という事は、別記事で紹介した通りだ。
このアプローチは、顧客ひとりひとりをまとめ上げて市場を捉える、ボトムアップ型といえる。
一方で、市場を俯瞰して分析していくトップダウン型のアプローチもある。その代表選手がSTP分析である。
STP分析とは
STP分析は、マーケティング戦略を考える際の最も有名なフレームワークと言っても過言ではない。
STPはSegmentation(セグメンテーション)・Targeting(ターゲティング)・Positioning(ポジショニング)
それぞれの頭文字をつなげた造語である。
セグメンテーションとは、既存・新規のようの顧客をわけること。そして既存顧客であれ新規顧客であれ、
より深く理解していくためには更なるセグメンテーションが必要となる。
ターゲティングは「セグメントされた市場の中からターゲットを選定すること」だ。
ターゲット(Target)とは標的・的という意味ですが、
見込み顧客のうち、特に購入を促したい顧客のことを指す。
ターゲット顧客とも呼ばれる。ターゲットが集まって形成される市場がターゲット市場だ。
ポジショニングとは、ターゲット顧客に対して、自社の商品・サービスがどのような価値を提供し、
どのように差別化するのかを明確にする事である。
いくら顧客ニーズやターゲットを上手く抽出できたとしても、
そのニーズを既に競合他社が満たしているならば自社を選んで貰えない。
明確な差別化を実現し、顧客から「自社商品にしかない独自価値」を認識してもらう必要がある。
このセグメンテーション・ターゲティング・ポジショニングを考えていくことがSTP分析だ。
それではまず、セグメンテーションから詳しくみていきましょう。
STP分析① セグメンテーションの基本
セグメンテーションの切り口として覚えておきたいのは次の4つである。
<セグメンテーションの切り口>
●地理的変数(居住地域、気候、文化、人口密度など)
●人口動態的変数(性別、年齢、未既婚、子供有無、職業、年収など)
●行動・態度的変数(商品やサービスへの関与度=認知状況・購買経験・購買時期や頻度・満足度など)
●心理的変数(価値観、趣味・嗜好、パーソナリティ、ライフスタイルなど)
1つ目は地理的変数で、住んでいる国や地域などが代表例だ。
2つ目は人口動態的変数で、性別・年齢・未既婚・職業など私たち個人を識別する基本情報のようなものである。
会員登録や行政手続きをする際に記入する情報と言えばイメージしやすいと思うが、属性情報とも呼ばれる。
地理的変数・人口動態的の2つはセグメンテーションの基本中の基本と言える切り口だ。
3つ目は行動・態度的変数だ。ある商品を購入したかどうかという“行動”や、
購入した商品をどう思っているかという“態度”でセグメンテーションしていく。
そして4つ目は心理的変数である。
価値観・趣味・嗜好・パーソナリティなど、その人の行動や態度の裏側にある、心理的な価値観に着目する。
それぞれの切り口における代表的なセグメンテーション例は次の通り。
【セグメンテーション例】
●地理的変数の場合:
例)居住地域:1都3県(東京・神奈川・千葉・埼玉)/2府2県(大阪・京都・奈良・兵庫/その他の県
●人口動態的変数の場合:
・性別:男性/女性
・年齢:10代/20代/30代/40代/50代/60代以上
・ライフステージ:独身/ファミリー/退職シニア
・世帯年収:~400万/~600万/~800万/~1,000万/~1,500万/~2,000万/それ以上
●行動・態度的変数の場合
・商品利用頻度:
毎日利用する/週に1回以上利用する/月に1回以上利用する/それ未満の頻度/利用したことはない
・商品満足度:
満足している/まぁ満足している/どちらとも言えない/あまり満足していない/満足していない
●心理的変数の場合
・価値観:新しい商品には敏感な方だ/新しい商品にはあまり興味が無い、外交的/内向的、
休日は家にいる事が多い/休日は外出している事が多い
セグメンテーションの切り口は無数にあるが、重要なのは「顧客ニーズに差がある切り口か?」という点だ。
担当商品の顧客ニーズに差が発生しそうかどうか?という仮説をもってセグメンテーションを考えていく。
たとえば美容関連商品であれば、女性と男性で大きなニーズ差があるだろうし、
女性も20代と50代ではニーズが違うことが容易に想像できる。
実際には20代の前半・後半×価値観などの細かさでセグメンテーションが検討される。
商品購入経験でセグメンテーションする場合でいえば、
「毎日購入/週に1回以上購入/月に1回以上購入/それ未満の頻度/購入したことがない」の5段階や、
「現在購入者/購入した事はあるが現在は持っていない(中止者)/非購入者」の3段階など
さまざまな切り口が考えられる。
商材ごとに、顧客ニーズにどの程度差?を考えることが重要だ。
ほとんどの生活者が定期的に購入するスナック菓子やお茶であれば、
購入頻度を細かくセグメントしてもニーズに差が生まれますが、
空気清浄機やドラム式洗濯機のように購入しているかどうかだけでニーズの差が明確になる商品もある。
なお、実務で最もよく使われるセグメンテーションは性別×年代である。
結局、性別×年齢がどの業界・どの商材であってもニーズに差が生まれやすい事を表している。
一方で、近年では価値観の多様化の影響で20代男性・30代女性のようなセグメントで共通して
発生する大きなニーズの塊が減っているのも事実である。マスマーケティングが難しくなっている。
「1都3県に居住/女性/30~35歳/未婚/会社員/年収500万円以上/ダイエットに興味があり、
スポーツジムに通っている」のように、複数の切り口を組み合わせ、
一定規模の市場規模が見込めるミディアムサイズのセグメンテーションを考えなければならない。
STP分析② ターゲティングの基本
ターゲティング(Targeting)はセグメントされた市場の中から、
見込み顧客のうち、特に購入を促したい顧客(ターゲット)を選ぶことである。
ターゲティングを考える際に考慮すべき視点は6つある。
<ターゲティングの視点>
①市場規模
②ニーズの充足度
③提供価値の実現可能性
④ターゲットの購買力
⑤ブランドイメージへの影響
⑥ターゲットへのリーチ可能性
最も重要なのは「市場規模があるかどうか」である(ターゲティングの視点①)。
どんなに優れたセグメンテーションとターゲティングを実施したとしても、
市場規模が小さければ収益を生み出し続けるビジネスにはならない。
売上目標を達成できる市場規模があるかどうかは非常に重要だ。
一方で、市場規模の算出を精緻にやるのは労力の割に実りが少ないので、
売上目標を達成しえる規模になりそうか?が判断できる程度の情報で充分である。
この辺りは別記事で詳述しているので参考にして欲しい。
次に考慮すべきは「そのセグメントにおけるニーズの充足度」である(ターゲティングの視点②)。
たとえば「外出時に日焼けをしたくない」というニーズは、
日焼け止めクリームや日傘でニーズがほぼ満たされていると考えられる。
このような場合、市場規模が大きかったとしても新しい売上をつくる事は難しいだろう。
ニーズが大きく、充足度が低いセグメントを選ぶことが重要だ。
ビジネスチャンスは需要>供給が発生しているセグメントにある。
しかし、もし需要>供給が発生しているセグメントが発見できたとしても、
そのニーズを満たす価値を自社が提供できなければ、もちろんビジネスにはならない。
したがって「提供価値の実現可能性」を客観的に見極めることも重要だ(ターゲティングの視点③)。
また、自社が提供する商品やサービスがある程度高額な場合は、
ターゲットがそれを購入可能な所得水準かどうかを確認すること、
つまり年収や可処分所得でターゲットを選ぶことを忘れないようにしよう。
「ニーズがある=購入することができる」ではない(ターゲティングの視点④)。
さらには商品を購入して貰えそうでも、客層が自社のブランドイメージや提供価値に
悪影響を与えそうならば、ターゲットから外すという判断をする事もある(ターゲティングの視点⑤)。
特に空間や体験が価値となるサービス業においては重要な視点だ。
たとえば静かで落ち着いた空間が価値になっている高級レストランやホテルにとって、
大声で騒ぐような団体客は、たとえ売上拡大に繋がりそうだとしてもターゲットから外す方が賢明だ。
そして最後は広告・宣伝・販促などのマーケティングコミュニケーション活動において、
「実際にリーチできるセグメントかどうか」を考える((ターゲティングの視点⑥)。
この観点は新規事業の企画などでは疎かにされがちなので注意がして欲しい。
実際に商品化した際にターゲットに新商品の存在を伝えられなければ、売上に繋がらないからだ。
このようにさまざまな視点を考慮してターゲットを決めていく。
良いターゲットが見つからない場合は、セグメンテーションの切り口に問題がある時が多いので、
切り口を変えてみよう。セグメンテーションとターゲティングはセットで行い、
行ったり来たりを繰り返しながらターゲットを定めていく。
STP分析③ ポジショニングの基本
ポジショニングとは、
ターゲットに対して自社がどのような価値を提供し、どのように差別化するのかを明確にする事である。
差別化とは「競合他社との違いや自社の独自性を明確に打ち出すこと」だ。
いくらニーズやターゲットを上手く抽出できたとしても、
そのニーズを既に競合他社が満たしているならば自社を選んで貰えない。
明確な差別化を打ち出し、顧客から「自社にしかない独自価値」を認識してもらう必要がある。
「ターゲットから見たときに、自社にしか提供できない独自価値」
のことをUVP(Unique Value Proposition)と言う。
UVPは自社しか提供できない独自価値なので、自社独自の強みを活用することが前提となる。
なお、ポジショニングを考える事・差別化を実現する事は、UVPを明確にする事とほぼ同じだと考えて欲しい。
UVPで有名な事例に次のようなものがある。
古い事例となるが、わかりやすいので紹介しておこうと思う。
<有名なUSPの例>
●ドミノピザの「熱々ピザを30分でお届け」
●QBハウスの「ヘアカット1,000円 所要時間10分」
●花王アタックの「スプーン一杯で驚きの白さに」
宅配ピザは届くまでに時間がかかって冷えている事が多く
散髪は30分~60分で数千円、
洗濯用洗剤は白くするためには量を増やす、という事が一般的だった市場において、
これらの商品はUVPが明確で差別化されていた為、大きな成功を収めたことで有名な事例である。
UVPはターゲットの印象に強く残るように、わかりやすく・簡潔な言葉で表現される事が多いため、
キャッチーコピーとしてそのまま使われることが多いのも特徴だ。
なおUVPは「自社にしか提供できない独自価値」なので、
他社が同じような価値を提供できるようになった場合、それはUSPではなくなる。
今では宅配ピザは30分以内の配達は当たり前であり、
洗濯用洗剤もスプーン一杯で白さの担保はあたりまえ品質になっているため、それぞれUVPではなくない。
宅配ピザであれば「窯焼きピザを30分でお届け」であったり、
洗濯用洗剤であれば「スプーン一杯で除菌・抗菌まで可能」のように、新しいUVPを開発していく必要がある。
UVPは時代や顧客ニーズと共にアップデートしていくものなのである。
STP分析をざっくりと理解して貰えただろうか?
STP分析の目的は、
ターゲットから見たときに、自社にしか提供できない独自価値(UVP)が何かを明確にすること。
ターゲットが変わればUVPの選定も変わる。
セグメンテーションやターゲティングが目的化しないよう注意してもらいたい。
それではまた。