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文系ミドルが身につけたいデータ活用術

先日、雑誌『THE21』のインタビューを受けた。
そこで文系ミドルが身につけたいデータ活用知見について語ったので、こちらでもお伝えしたいと思う。
インタビューが丁寧語だったので、以下の記事内容の文体は「ですます調」になっている。

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目次

アウトプットの説得力が増す「検証型」データ活用

ミドル層のマネージャー、中でも文系の方々は、ともするとデータ活用に苦手意識を抱きがちです。
「データドリブンの時代」だと言われても、何をどの程度身につければよいのか、
目指すべき立ち位置はどこか、と迷うこともあるでしょう。

そもそも、これまでデータがなくとも「困らなかった」人も多いはず。
課題を見つけ、仮説を立てて解決するスキルなら、これまでの経験によって十分備えているのに……
という戸惑いの声も、しばしば耳にします。

しかし、「だからこそ」データ活用力が必要だ、と私は思います。
経験に裏付けられた解決策や判断は、たしかに精度が高い場合も多い。
しかし、経験値という「肌感覚」は周囲には理解しづらいもの。
仮に精度が高かったとしても、「根拠は何だろう?」と質問したくなるのが人情です。
データドリブンな現代ならば尚更ですね。

データは、そんなときの味方になります。
提案に根拠が加わることで、提案や発言の説得力が大いに増すのです。

そこでお勧めしたいのは、「自分の仮説を裏付ける」データを集めることです。
データ活用は、大まかに「探索型と検証型」に分かれます。
「このテーマの現状はどうなっているのだろうか?」と広く調べるのが探索型、
「この仮説を裏付けるデータは?」とピンポイントで追うのが検証型。

恣意的になるのはいけませんが、自分の経験値を補強・補完するためのデータ活用、
という意識を持てば、データ活用に前向きになれます。

「勉強になった」で終わっていないか

データを有効に活用するにあたって、気をつけて欲しいポイントが6つあります。

1つ目はビジネスインパクトを考慮することです。
非常にシンプルな例を挙げると、
「商品A(前年比70%)と商品B(同95%)の不調要因をデータ分析する」場合、
何となく問題が大きそうなAから着手しがちですが、「不調金額が大きいほう」から分析するのが正解です。

また、「とりあえず分析しやすいものから着手しよう」と安易に決めるのもいけません。
どんな分析であれ、目的は「課題解決」であり、解決によって生まれるビジネスインパクトが
大きいポイントから分析するのが合理的です。

2つ目は、分析目的を明確にするです。
「来年度の離職率を5%以下にする」「売上10億に到達させる」など、まずビジネスの目的があり、
それを達成する為に様々なアクションが必要になるわけですが、
何をすべきかを明らかにするために(=分析目的)、データ分析やリサーチを行います。

ここが理解されていないと、データ分析自体が目的化します。
「こんなことがわかった、勉強になった」だけで満足し、
「ならば、どうする?」が抜け落ちてしまうのです。よくある失敗例ですね。

分析で得られた知識や発見を、意思決定やアクションに結びつけてはじめて、データ「活用」である、
と心得ましょう。

データの信頼性を見極める

3つ目は、データの信頼性を見極めるです。
分析目的が定まれば、どのようなデータを集めるべきかが決まります。

例えばマーケティングリサーチでアンケート調査が必要になれば、
「誰に(対象者)、何を(調査項目)、いつ、どのように(調査手法)」聞くのかを決めます。
ログデータの分析ならば、「どのようなデータを、どのデータソースから集められるか」などを考えます。

ただ、ほとんどの方が最初に行うのがウェブ検索でしょう。
ご存知の通り、ウェブ情報は玉石混淆で、真偽が疑わしいものも多々あります。

比較的安全なのは、公的機関が発表しているものや、シンクタンク・調査会社のレポート。
彼らは、客観的で正確な情報を社会へ提供することが存在意義でもあるため、信用に足ると考えられます。

信頼できる情報という観点では、新聞や書籍も良い情報源です。
新聞記事は記者の裏とり・デスクのチェックが入りますし、書籍は編集者・出版社の校閲が入ります。
書店に並ぶには、書店員の眼鏡に叶う必要もあります。

いずれも情報編集のプロが、社会に発信すべき情報であるか?を丁寧に検証しています。
速報性・手軽さではウェブに劣りますが、信頼性はウェブよりも上。
情報発信や編集のプロセスに着目して、情報の信頼性を見極める力が必要です。

「比較対象」を置かないと発見は得られない

4つ目は、適切な比較軸を設けるです。
データ分析には「比較」が不可欠です。目的に合致したデータでも、全体値を眺めてわかる事はごくわずか。

たとえば従業員満足度の結果を見るにあたって、「全体満足度が70%でまずまずだ」では、
何のアクションにもつながりません。
性年代、労働時間、ライフステージ、職種など、満足度傾向に差が生まれそうな比較軸を設けてこそ、
「40代・課長職・子持ち・営業職」の負担が顕著に大きい」という問題を発見でき、
該当者のアサイメントや業務量の調整につなげられます。

比較軸の設定には「差がでるはずだ」という仮説が重要です。

「データ活用の誤算」を防ぐプレゼンテーションのコツ

5つ目は、プレゼンテーションです。
データ収集や分析が的確でも、プレゼンテーションが拙いと説得力を持たせられません。

よくある失敗パターンは、分析したデータを見せ過ぎてしまうこと。
一生懸命調べたことを「全部」伝えたい気持ちはわかりますが、聴き手に冗長な印象を与えます。

また、データは説明力が高いがゆえに、不用意に引用するといらぬ質問を誘発し、
本筋と違う議論を生むリスクがあります。結果、伝えたいメッセージがぼやけてしまう。

対策としては、プレゼンテーションの構成を「結論→根拠→結論」のようにシンプルに構成し、
根拠を最もよく表しているデータを1~2つ選ぶ程度で充分です。
残りのデータは本編に入れずに、質疑応答で「もし聞かれたら出す」控え資料にするのが正解です。

最後の6つ目は、「データ偏重にならないこと」です。

意思決定がデータドリブンになりすぎると、「この視点でのデータはないのか」という質疑に答えられないと
「エビデンス不足で信頼できない」と断じられてしまう。非常に危うい状況です。

データを活用して数値化すると客観性が高まり、現状を理解しやすくはなります。
しかし実際のところ、データがすべての事象を表現することなど不可能です。

これだけデータ化が進んだ世の中でも、データの存在しない領域はいくらでもあり、
データが現実を反映している範囲は限定的です。
それにも関わらず、データ不足が理由で提案が却下されるのはいささか理不尽です。

現実の複雑さを軽視しているとも言えます。

対策としては「このデータが示す範囲はここまで」という適用範囲を示し、
説明できていない範囲の存在を最初に合意しておきましょう。

その上で、結論として勧めるアクションが「部分的だが有効である確率が高い」と主張する。
すべてを説明していない事を明示することで、聞き手の期待値をコントロールするイメージです。

「使えるデータ」を見抜く「俯瞰」と「生活者視点」

以上の6つがデータ活用の基本的なポイントです。
文系ミドルの方々はこのポイントを理解したうえで、実務で活用できるよう「訓練」しましょう。

取り組みやすい訓練はデータの「目利き力」を育てることです。
有用なデータの見つけ方、選び方、読み方、アクションへの結び付け方――データ活用力の源は、
ひとえにこの力にあるのです。

目利き力を高める為には、二つのアプローチを意識しましょう。
一つは「俯瞰」、すなわち全体を見ることです。

どのようなビジネス環境にも、顧客・自社・競合というプレイヤーがいて、
それぞれが思惑をもって活動しています。その全ての活動が複雑に影響を与えあって、
市場が形成されています。
その市場の構造や、相関関係・因果関係を俯瞰して、構造的に捉える視座をもちましょう。

物事を俯瞰して構造化していると、関連データを見た際に、どこが表現されていて、
どこが表現されていないかに気づく事ができます。

もう一つは「生活感・現場感」です。
一般生活者は何を求め、どう行動しているか、
現場社員の仕事ぶりは具体的にどうなっているのかに注意を払いましょう。

生活感・現場感を適切に持っていれば、あるデータや数字を見たときに「実態と違う気がする」という
違和感をもつ事ができます。
違和感は、人間が人生を通して身体に蓄積している過去の膨大な情報(あなたのデータベース)が
出発点になっています。そこに、常に最新の生活感・現場感がインプットされていれば、
それは信頼に値する検証データベースです。

この2つのアプローチを使いこなせれば、データの目利き力を大きく高めることができます。

例えば、多くの方がお持ちの「Tカード」で考えてみましょう。
Tカードを持つ人は約7000万人。そこに記録された情報が魅力的なビッグデータであることは確かです。
しかしそれが、7000万人の消費活動を「正確に」反映している、と言い切れるでしょうか。

俯瞰で考えると、「Tカードの提携コンビニはファミリーマートで、セブンイレブンのデータはない」
と指摘できますし、「お客が毎回カードを提示するとは限らない」という指摘は、
ふだん生活者として店のレジに並び、周囲の行動を観察しているからこそ可能です。

もちろん、「だから有用ではない」ということではありません。
こうした見方によって、鵜呑みでも全否定でもなく、データの有用性を適切に判断することに
意味があるのです。自分で調べる際はもちろん、部下の報告や、取引先からの提案を検討する際も、
的確な目利きが出来るようになりましょう。

文系ミドルこそがDX成功の鍵を握る

俯瞰力を育てるには、体系化された情報に多く触れるのが有効です。
その点では、やはり書籍がお勧めです。該当テーマに関する書籍を、少なくとも3冊以上読みましょう。
同じ著者のものではなく、違った視点や見解を幅広く得られるような書籍選びも大切です。

書籍の目次は情報の俯瞰・構造化を学ぶ非常に良い教材です。

生活感を養うには、仕事以外のさまざまな生活を楽しむ事が重要です。
生活者として面白そう、素敵だ、買いたいかもという感情や行動のメカニズムを体感していることは重要です。

現場感を養うには、幅広い業務を経験することでしょう。
ゼネラリストが否定的に語られることが多い昨今ですが、多くの現場を経験していれば、
幅広くデータの罠を察知する素養を獲得できます。

豊かな生活感・現場感をもつことは、すなわち人間理解力をもつ事でもあり、
文系人材の親和性が高い領域です。

そして、俯瞰力・生活感・現場感を一気に高められるトレーニングは、事業責任者を経験することです。
P/L(損益計算書)責任を負い、市場分析、事業企画、事業計画策定、営業、マーケティングといった
全プロセスを包括的に経験すると、データ上の数字と、ビジネスの事象がクリアに繋がり始めます。

新規事業であれば尚良し。チャンスがあればぜひ挑戦ジしていただきたいと思います。

この「俯瞰力と現場感覚」の統合力が身につくと、文系ビジネスパーソンの価値は飛躍的に高まります。

また、事業を育てるためにはKGI・KPIの設定も重要です。
KGI・KPIは、どのような基準にするかだけでなく、どのようにデータを取得し、
どのように分析してPDCAを回すのか、という点まで考えなければなりません。
この事業育成に必要なデータ活用の観点は、ビジネス系人材の腕の見せ所です。

DXとは「データとシステムを活用した事業改革」です。
エンジニアやデータサイエンティストのように、データを分析・解析・実装する専門性はなくとも、
データの有用性を見極め、事業のKGI・KPIを設定すれば、専門家にアクションに必要なデータを
明確にリクエストする事ができます。

文系ミドルが目指すべきは、データを活用して適切な意思決定やアクションをリードする
「ビジネスプロデューサー」という立ち位置です。
専門家の力を借りながら、必要なデータを見極め、引き出し、読み解き、アクションにつなげる。

データドリブンの時代、その役割は今後もますます意義を増していくことでしょう。

それではまた。

❏書籍紹介
ビジネスプロデューサーの仕事を、新規事業開発の企画プロセスと重ねて解説しています。
よろしければ手に取ってみてください。
>>『多彩なタレントを束ね プロジェクトを成功に導く ビジネスプロデューサーの仕事』

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