今回は「組織をデータドリブンに変える工夫」についてお伝えします。
データ活用のメリット
データ活用のメリットは概ね以下5つです。
これらメリットが発揮されれば、課題解決の確率が高まっていくため、
多くの企業が全社的にデータ活用を推進しています。
■データ活用のメリット
- 現状認識が明確になる
- 新しい視点手に入る
- 説得力が高まる
- 客観的で建設的な議論を促進する
- 問題解決の為のアクションが生まれる
私は通常、新規事業開発や組織開発のコンサルティングを生業としていますが、
企業人事の方から、「データドリブンな組織に変えていきたいが、多くの社員がデータ活用に及び腰。
いろいろと研修やツール導入を行ったが、データ活用できる人材はごく一部にとどまっている」
という悩みをよく伺います。
データ活用に馴染みがない方は、
データ活用のことを、「面倒くさい」「活用の意義を見いだせない」「難しそう」と感じています。
それもそのはずで、よくある需要予測・広告効果の最適化・購買実態の可視化
などの事例を見せられても、自分の業務と遠すぎて、実感がわかないわけです。
データ活用のメリットを多くの社員が実感するために必要なのは、
「自分が関心ある課題が、データ活用によって解決される経験をすること」です。
時間の使い方をデータで可視化する
どんな社員でも関心ある課題の1つとして、「仕事の生産性を高めること」が挙げられるでしょう。
そして、その為にまず取り組んでもらいたいのが
「時間の使い方(どのような仕事に・どれくらいの時間を使っているか?)をデータで可視化すること」です。
生産性もビジネスの成果も、時間の使い方で決まります。
私たちは生まれてから死ぬまで、時間を使い続けて生きています。
時間が増えることは決してなく、減り続けます。
厚生労働省の「簡易生命表(令和2年)」によると、平均寿命は男性が81.64歳・女性が87.74歳。
現年齢が40歳の男女が仮に平均寿命まで生きるとすると、
残された時間は男性が約42年・15,330日・367,920時間、女性が約48年・17,520日・420,480時間です。
仮に毎日7時間を睡眠に充てるとすると、活動時間は男性が260,610時間、女性が297,840時間。
時間の可視化は、命の使い方の可視化です。
この活動時間を、仕事・家族との時間・趣味やレジャー・休息などそれぞれの価値観に合わせて使った結果、
私たちは喜怒哀楽といった感情報酬、給与や副業収入などの金銭報酬、
新しい友人との出会いなどの人的報酬など、さまざまな報酬や成果を得ています。
仕事の生産性が高まるということは、より少ない時間で、より大きな成果をだすという事です。
時間の使い方を分析し、発見・気づきを得て、新しい意思決定や行動へつなげていくことで、
生産性を高めることができます。
次の図をご覧ください。これは私のある1ヶ月の時間の使い方を可視化したものです。
主要な業務内容を洗いだし、分析しやすいよう6つに分類しています。
そして、現在の時間の使い方・理想の時間の使い方・増減時間を記入し、
増減を実現させる業務内容=課題に印をつけています。
すべての時間の増減(=問題)を実現するのは非現実的なので、
生産性向上のインパクトが大きいものに絞り込んでいます(=課題)。
そして、課題解決に向けたアクションを最後に記入しています。
フォーマットは何でも構いませんが、皆さんの標準的な1ヶ月間の仕事時間の使い方を書き出してください。
実際には繁忙期・閑散期などがあると思いますが、直近1年間を最も反映する時間の使い方を考えましょう。
1ヶ月よりも3ヶ月・半年・1年という期間の方が考えやすければそちらでも大丈夫です。
仕事に使った時間=勤務時間ではなく、家に持ち帰って仕事した時間・移動時間・仕事のための読書など、
その月収(年収でもOK)を稼ぐために使っている時間をすべて入れてください。
非常にシンプルな分析ですが、生産性向上にはとても有効です。
特に、毎日忙しい割には成果につながっていないと感じている人には特に、
取り組んでもらいたいと思います。きっと、想像以上に些末なことに時間を使っているはずです。
仕事時間分析は、非常にシンプルなデータ活用であり、
集計・分析スキルも必要ありません。誰にでも取り組める内容ですが、効果は大きいものです。
このように、「簡単だけど、誰でも効果実感ができるデータ活用」を全社員に取り組んでもらうこと。
このような取り組みを積み重ねていくことが、組織をデータドリブンに変える第一歩です。
なお、時間分析の詳細な方法は、
『生産性の向上の第一歩!時間分析からはじめる数字活用の超基本(Udemy)』の動画講座にて
解説しております。興味がある方はご覧になってください。
データドリブン組織構築に向けたさまざまな取組み
時間分析でデータ活用への抵抗感が払拭されたら、より実務に近いデータ活用機会を設計していきます。
ここでは取り組みやすい内容を4つほどご紹介します。
【1】自社が保有しているデータの種類と内容を洗い出す
以下のようなフォーマットを活用して、自社や自部門が保有しているデータを洗い出してみましょう。
まずは、自部門が保有しているデータ・自部門の業務内容や活動内容が表現されているデータを考えますが、
業務で連携が深い他部門が保有しているデータを考えるのも良いと思います。
部門間の連携課題を、データドリブンで考えるキッカケにもなります。
KGIやKPI設定
もし未設定であれば、自部門や担当組織ごとのKGI・KPIを設定しましょう。
KGIはKey Goal Indicatorの略であり、ビジネスの最終的な「結果指標」です。
り上げ・利益・CV(コンバージョン)数・顧客満足度・従業員満足度などが設定されます。
結果を出すためには、必ず結果に至るまでの重要なプロセスがあり、この重要プロセスをKPIと呼びます。
KPIはKey Performance Indicatorの略であり、KGIを達成するために必要なプロセスを計測する「中間指標」です。
KGI・KPIは客観的に・正確に検証していくことが大切なので、
原則、数字で設定しなければなりませんから、データが必要になります。
全社のKGIやKPIは、経営層や経営企画などが主導になって設定されていると思いますが、
それだけではなく、部長・課長・チームリーダーなどの管理職が自ら、
担当組織のKGI・KPIを考えることが大切です。
繰り返しですが、データ活用を促進するためには、データや数字を、身近な業務内容と紐づけることが重要です。
P/Lを公開して、勉強会を行う
P/Lは「Profit and Loss Statement」の略称で、企業の1年間の収益性を表す損益計算書です。
会社の成績表ですね。上場企業でなければ通常公開していないと思いますが、
P/Lは、全社員の日々の活動結果が合わさり、積み重なって、最終的にデータ化・数値化されたもの。
データ活用スキルの、有効な育成教材になりえます。
・自分の人件費や経費はどこに含まれているのか?
・自分がつくった売り上げは全体の何割なのか?
・そもそもオフィスの家賃っていくら?
・全社でDXを推進したらその数字が、どのように変化するのだろうか?
・同業他社と比較すると?
など、参加者ができるだけ自分の業務につなげられる、
興味関心をもてるテーマと紐付けて読み込ませるなどの工夫を行うと、思ったよりも楽しんで貰えます。
財務部長などが主催して、勉強会形式で読み込むと良いと思います。
自分の日々の仕事が最終的な経営成績(データ・数字)とどうつながっているかを体感してもらうことで、
会社の問題や業績を自分ごと化しやすくなる、というメリットもあります。
経営の立場からすると、こちらの効果の方が嬉しいかもしれません。
データ活用が必要な新しい業務を設計する
組織でデータ活用を習慣化したければ、データ活用が必要な新しい業務を設計しましょう。
データ活用・データ分析の技術を高めるには、実業務でデータや数字を使う機会を増やすこと、
データや数字を使ったプレゼンテーションの機会を増やすことが有効です。
たとえば、次のような業務が考えられます。
・メンバー全員が順番に、自分が気になるテーマのアンケートを実施し、
その結果を集計してプレゼンテーションする
・目標設定には必ず数字を置き、その数字はどのようなデータを・どう集計すれば良いかを議論する
・部門内で新規事業を考えるプロジェクトを立ち上げ、簡易的なP/L作成を経験させる など
最初はシンプルかつ手軽に実施できる内容にし、徐々に難易度を上げていくことがポイントです。
とにかく、データ活用は難しくないこと。活用すると自分にとって良いことがあること。
小さくて良いので、そうした実感を得る機会を積み重ねていくことが、
データドリブンな組織づくりには重要です。